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Ric Wilson “Woo Woo Woo”

天野「3曲目はリック・ウィルソンの“Woo Woo Woo”。彼はシカゴ出身のラッパーです。テラス・マーティン(Terrace Martin)とのコラボレーションEP『They Call Me Disco』(2020年)が話題になったのですが、なんといってもCHAIのシングル“チョコチップかもね”(2021年)にフィーチャーされたことが話題でしたよね。メロディアスなラップが魅力的で、これから日本でも人気を高めていきそうです」

田中「ウィルソンの流れるようなフロウは、ディスコやダンス・クラシックの要素が色濃いダンサブルなサウンドとの相性が抜群ですね」

天野「そうですね。あと、この4つ打ちに亮太さんがハマるのもよくわかります(笑)」

田中「まあ、そうなんですけど(笑)。今回の“Woo Woo Woo”は、カラっと乾いた質感のビートと温かな音色のシンセサイザーによるディープ・ハウス調。1分37秒という短い尺の楽曲なので、〈もっと長くてもいいのになー〉と思ったのですが、このパッと終わる感じがイマっぽいんでしょうね。〈くだらない話をさせてくれよ〉と歌うリリックでは、ポリティカル・コレクトネスを配慮すべき時代において〈もっと自由に表現したいぜ〉という気持ちを歌っています」

 

Iceage “Shelter Song”

田中「デンマークはコペンハーゲンから登場し、2010年代のインディー・ロックのカリスマとなったアイスエイジ。彼らはマタドールからメキシカン・サマー(Mexican Summer)に移籍して、5月7日(金)にニュー・アルバム『Seek Shelter』をリリースします。メキシカン・サマーといえば、サイケデリックやエクスペリメンタルなサウンドがレーベルのカラーであり、チルウェイヴ以降のUSインディーを牽引していた存在だけに、この組み合わせにはかなり興奮しました」

天野「アイスエイジは前作『Beyondless』(2018年)で、カントリーやブルースといったアメリカン・ルーツ・ミュージック志向を強めていたので、バンドのキャリアを考えると、今回の移籍は興味深いですよね。新作からは、これまでに“The Holiding Hand”“Vendetta”と2曲のリード・シングルが発表されています」

田中「どちらの曲もよかったですよね。アルバムのプロデュースをソニックブームが手掛けているそうで、サウンドはこれまで以上にサイケデリックな印象。この“Shelter Song”は、エリアス・ベンダー・ロネンフェルト(Elias Bender Rønnenfelt)の弱さや脆さをも赤裸々に見せているかのような歌声と、ダルなガレージ・ロック・アンサンブルがたまりません。ゴスペル・クワイア調のコーラスも効いていて、聖俗あわせ持っているかのようなロック・バラード。一時期のプライマル・スクリームというか、ボビー・ギレスビーが持っていた狂おしいまでに退廃的なロマンティシズムを感じてしまいますね」

天野「僕は、良くも悪くもローリング・ストーンズやオアシスみたいな大味でブルージーなムードを感じて、〈アイスエイジもデビューから10年以上経って変わったなあ〉と思いました(笑)。アルバムはどんな作品になっているのでしょうか?」

 

Basside & SOPHIE “NYC2MIA (SOPHIE Remix)”

天野「キュー・リンダ(Que Linda)とカロ・ロカ(Caro Loka)のデュオによるベイサイドは、〈bass〉と〈bayside〉をかけている名前がいいですよね。彼女たちのサウンドはマイアミ・ベース。2016年のライブ映像なんかを観ると、ノリが最高で笑顔になっちゃいます」

田中「この“NYC2MIA (SOPHIE REMIX)”は、曲名にあるとおり、原曲1月に急逝したソフィーがリミックスしたもの。もともと、〈Sylvia Rivera Law Project〉というジェンダーの自由を司法の面で助ける団体へのチャリティーとしてBandcampで先行販売されていたんです。それが今回、Spotifyなどのストリーミング・サーヴィスでも聴けるようになりました。彼女たちは、4月2日(金)に“NYC2MIA (SOPHIE REMIX)”を収録した新作『FUCK IT UP EP』をリリースするそうですね」

天野「そのEPをソフィーがプロデュースしているんですよね。なので、ソフィーが亡くなってから彼女ががっつりと携わった初めての作品として注目されています。“NYC2MIA (SOPHIE REMIX)”に話を戻すと、〈NYからマイアミへ/ブラはなし、ペニスもなし〉というフレーズが繰り返されていて、まずそこが最高(笑)! ソフィーらしいインダストリアルな電子音が無骨なマイアミ・ベースのノリと見事に合っていて、ベイサイドの魅力を盛り立てているなと思いました。ソフィーが亡くなってしまったことに僕はいまだに心を痛めているのですが、こんな愉快な置き土産を遺してくれたことはうれしいですね」