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全員が通じ合っていい流れができる

 ブラジルではアマゾンにも10日間滞在。そこでの体験はアルバム全体に反映されているようで、アマゾンに住むコミュニティーの長老から動物の呼び名を教わった時の様子や現地女性の歌声をボイスメモで録音し、それらを序曲や間奏曲などで活用したという。ヴェロカイのセッションに関連した曲では、ネイのヘヴィーな体験を反映させながら人々を鼓舞するピアノ・バラード“Stone Or Lavender”、ネイが昔住んでいた家の赤いステンドグラスが日没になると太陽の光で照らされて部屋全体が赤に染まったことに由来するサイケなソウル・バラード“Red Room”といった滋味深い曲も誕生している。

 「“Stone Or Lavender”は数年前に僕が書きはじめて、それをネイが気に入って音を加えていくことでハイエイタスの曲になった。普段の僕らの曲とは少し違う感じがするけどね。このレコーディングをネイと僕でしていた時に、別の部屋でポールがリフを書きはじめたのが“Red Room”。そのリフに後から皆で音を乗せて、ネイの赤い部屋のアイデアが加わって一気に曲が出来上がった。僕はスタジオにあったグランド・ピアノとローランドのJX-3Pを使って、いい匙加減の音を作り、ペリンは自分の脚をハイハットとして叩いたりして、それが曲に親密な雰囲気をもたらしたと思う。全員が通じ合っていい流れができる……それがハイエイタスのいいところだね」。

 サイモンとポールの音遊びから発展して全員でアイデアを重ねていくうちに複雑になったという“All The Words We Don't Say”。ポールが作ったリフに、ネイがパートナーに電話で歌っていた子守唄のアイデアを持ち込んで完成させたラヴソング“Rose Water”。これらの曲に対しては、〈エクスペリメンタル〉とか〈フューチャー〉といった言葉も用いたくなるが、変拍子を用いたり、ストレンジなヴォーカルやサウンドを組み込むのは彼らにとっては普通のこと。ネイの友人がコウモリのイヤーモールドを人間用に作って洞窟に入り、コウモリの音世界を体験したことにヒントを得た“Blood And Marrow”も軽やかなリズムボックスや飛び交うシンセが秘境感を演出し、神秘的な音空間を作り出す。この曲にネイは、「何事も細部に近づいてみれば、それが持つ形を超えた何かが見えてくる。音楽も同じで、聴き返すたびに新しい発見がある。それが音楽をタイムレスにする要素だと思う」というメッセージを込めているという。

 アンダーソン・パークの誕生日にネイが録って送った音源だという“Sip Into Something Soft”でラヴリーに迫る一方、“Chivalry Is Not Dead”では、音楽業界が〈ヒットの法則〉として妄信している〈3分30秒のセックス・ソング〉というバカげたジンクスに中指を立て、それならと、両性具有のマダラコウラナメクジのセックスについて同タイムで歌い、型からハミ出してみせる。何しろ彼らは〈multi-dimensional, polyrhythmic gangster shit〉を標榜するバンド。「最高の表現だよね。ハイエイタスの音楽はこれからもずっとそれ」とサイモンは言い放った。

左から、バンドで参加したマイルス・デイヴィス&ロバート・グラスパーの2016年作『Everything's Beautiful』(Legacy)、バンドのリワークを収録したCorneliusの2018年作『Ripple Waves』(ワーナー)、ネイ・パームが参加したドレイクの2018年作『Scorpion』(Republic)

 

アルトゥール・ヴェロカイの72年作『Arthur Verocai』