手軽な音楽配信が広がる一方でレコード・ブームが巻き起こるなど、いま音楽を聴く方法には多くの選択肢があります。そんななかで、音質にこだわりたい方も多いはず。タワーレコードがおすすめするのは、SACDでのリスニングです。

タワーレコードのYouTube動画〈高音質のCD? 「SACD」とは《Q&A編》〉

当連載〈SACDで聴く名盤〉では、そのSACDの魅力や楽しみ方をお伝えしています。第3回でご紹介するのは、オーディオ・マニアにはおなじみ、ドナルド・フェイゲン『The Nightfly』(82年)のSACDハイブリッド盤。本日9月24日には本作を再現したライブ盤『Donald Fagen’s The Nightfly Live』スティーリー・ダンのライブ盤『Northeast Corridor: Steely Dan Live!』も同時発売されるので、この名盤を高音質で楽しむのにベストなタイミングだと言えます。

今回は音楽/オーディオ・ライター、ラジオDJとして知られる岩田由記夫さんに、SACDで聴く『The Nightfly』の魅力を解説してもらいました。 *Mikiki編集部

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DONALD FAGEN 『The Nightfly(SACDハイブリッド)』 Rhino/ワーナー(2011)

 

アナログとは異なるSACDのフレッシュさ

アナログ盤ブームの今、アナログ盤とCDの音質を比べるのは意味がないと言ったら、反論があるかも知れない。拙宅の試聴室には電源、ケーブルも含めれば500万円を優に超えるCDプレイヤー・セット、同じく400万円超のレコード・プレイヤーを設置している。仕事柄、音楽や音質を熟知したゲストが聴きに来るが、試聴を終えると異口同音にCDとアナログ盤の音質は別次元で語られるものだと感想を述べる。アナログにはアナログの良さがあり、CDにはCDの良さがある。それをどちらが良いかと比較するのはナンセンスなのだ。同じくらいの金額を投じたCDプレイヤーとレコード・プレイヤーで聴けば、それは分かると思う。

ではCDの種類による音質差はどうだろう。ぼくはドナルド・フェイゲンの名盤『The Nightfly』の通常盤CD、DVDオーディオ盤、SACD盤、MQA-CD盤を所持している。比較試聴すると明らかにDVDオーディオ盤、SACD、MQA-CDが通常盤CDより音質面で勝っている。入手のしやすさから言うとSACDかMQA-CDだ。SACDは2011年のDSDマスターが使われている。MQA-CDは2002年の48kHz/24bitのDVDオーディオ・マスターから作られている。普通のオーディオ・コンポではそう差が聴き分けられないかも知れないが、拙宅のオーディオ装置ではSACDが勝る。音の空気感がSACDの方がよりフレッシュなのだ。ちなみにレコードのマトリクス1(US初回プレス)と聴き比べたこともあるが、SACDにはアナログ盤と異なる良さがあった。スクラッチだらけのマトリクス1を聴くなら、SACDの方が音がすっきりしていて良いという方もいるだろう。

 

SACDと相性が良いデジタル録音が表現する〈青春の締めくくり〉

ドナルド・フェイゲンは82年に『The Nightfly』を発表した。全米11位、全英44位、日本のオリコン・チャートでも31位にランクされた。82年の時点でもそれなりのヒットだったが、それ以降、名盤としてロングセラーになったことに着目したい。音楽ファンのみならず、オーディオ・マニアにも音質の良い作品としてリファレンス・ディスクにしている方が多い。ドナルド・フェイゲンが所属していたスティーリー・ダンの名盤『Aja』(77年)も音楽性のみならず、音質の素晴らしさでロングセラーとなったが、それと同格の作品だろう。

ドナルド・フェイゲンは『The Nightfly』に関して〈50年代後半から60年代初めにアメリカ北東部の人里離れた郊外で育った若者が抱いたかも知れないある種の幻想を表している〉とコメントしている。このアルバムが録音された頃、フェイゲンは30代前半だった。そのことから推測すると、『The Nightfly』はフェイゲン流の青春の締めくくりだったと思う。人は誰でも青春から脱皮して大人になってゆくものだが、その端境期にフェイゲンが思ったことが音楽になっている。

タイトル曲の“The Nightfly”は、思春期にフェイゲンが聴いていた深夜ラジオのパーソナリティーを描写している。フェイゲンがターンテーブルとマイクに向かうモノクロームのジャケット写真は、この曲のイメージそのものだ。

『The Nightfly』収録曲“The Nightfly”

アルバムは全8曲中、7曲がオリジナルだ。スティーリー・ダンを思わせるタッチの曲に加え、レゲエ調のオフ・ビートやブラジリアン・ムードなどが加味された曲もある。1曲のカヴァーは“Under The Boardwalk(渚のボードウォーク)”、“Save The Last Dance For Me(ラスト・ダンスは私に)”などのヒット曲で知られるドリフターズのナンバー、“Ruby Baby”だ。フェイゲンの心の中にある若き日の深夜ラジオでは、こんな曲が流れていたのだろう。

『The Nightfly』収録曲“Ruby Baby”

ロック/ポップス分野のデジタル録音は、ライ・クーダーの79年のアルバム『Bop Till You Drop』で始まった。この『The Nightfly』も最初期のデジタル録音だった。それもSACDとの相性が良い理由なのではないだろうか。夜にぴったりの名盤だ。

 


RELEASE INFORMATION

DONALD FAGEN 『The Nightfly(SACDハイブリッド)』 Rhino/ワーナー(2011)

リリース日:2011年9月14日
品番:WPCR-14170
仕様:SACD/CDハイブリッド盤
価格:3,353円(税込)
※5.1chサラウンド&ステレオ音声収録
※通常のCDプレイヤーでも通常のCDとして再生することが可能です
※2002年に発売されたDVDオーディオのSACDハイブリッド盤化
※CDレイヤーの音源は高音質ステレオ音声をダウン・コンヴァートした音源を採用し、既存のCDとは異なる音源となります

TRACKLIST
1. I.G.Y.
2. Green Flower Street(グリーン・フラワー・ストリート)
3. Ruby Baby(ルビー・ベイビー)
4. Maxine(愛しのマキシン)
5. New Frontier(ニュー・フロンティア)
6. The Nightfly(ナイトフライ)
7. The Goodbye Look(グッドバイ・ルック)
8. Walk Between Raindrops(雨に歩けば)