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歌やラップとの共演で発揮するクリエイティヴィティー

――松丸さん自身の音楽についてもお伺いしたのですが、打ち合わせの時に〈最近、自分のルーツとしての「歌」について考えている〉と仰っていましたよね。

「はい。日本に来て3年間、即興やジャズ系の現場が多かったんですけど、最近になって歌と関わるレコーディングが少し増えてきた気がします。それは自分の中では原点回帰しているところもあって。というのも、僕は小さい頃からずっとパプアニューギニアの村の教会で育ったんです。毎週日曜日に教会に通って歌っていて、中学生でサックスを始めてからは歌詞とコードだけが書いてある譜面を渡されて演奏していました。ワーシップ・チームと言うんですけど、賛美歌をリードする役で、ピアニストやヴォーカリストと一緒にサックスを吹く。歌と合わせるセンスや間の取り方、フレージング、移調などの技術的な面は全部そこで培いました。今年に入ってからまた歌と一緒にじっくり音楽をやりたいと強く思い始めていたところ、とても嬉しいことにいくつか機会があったんです。

8月15日にNHK『クラシック音楽館』で、大友良英さんのディレクションで武満徹の歌曲の特集番組(『大友良英 presents 武満徹の“うた”』)が放送されるんですね。そこでシンガー・ソングライターの青葉市子さんと大友さんと僕で演奏した曲があって、その時に〈やっぱりこれが自分のルーツだな〉と思ったんです。サックス奏者としてそういう現場に参加することは、これまではあまりなかったんですが」

※編集部注 取材は番組の放送前に行った

――松丸さんは昨年リリースされた石若駿さんのSongbook Trioのアルバム『Songbook5』の4曲目“Messe Basse 2: Des-dur”に客演されていますが、あそこにも歌がありました。

「そうですね。ただ、『Songbook』の時はすでに録音されているトラックの上でクラリネットを吹いたので、今の話とは別の意味で歌に合わせました。完全にソリストとしての役割で、しかもクラリネットは本来使っている楽器ではないので、どちらかというと歌と歌い手の世界観と繋がるようなソロを意識しました。

Songbook Trioの2020年作『Songbook5』収録曲“Messe Basse 2: Des-dur feat. 角銅真実, 西田修大,  Marty Holoubek, 松丸契, 佐藤芳恵”

けれど、青葉さんと大友さんと一緒にやった演奏は、ソリストとしての参加ではなくて一緒に音楽を作っている感覚。今後も、歌の装飾としても歌の骨組みの一部としてもサックス奏者としてたくさん関わっていきたいです。

それと、宅録音楽家の浦上想起さんのニュー・シングル“甘美な逃亡”にサックスで参加しているんですが、そこではソプラノとアルトを吹いていて、隠し味的にヴォーカルとユニゾンしたり最後にソロ・セクションがあったりしたのですが、真ん中の2小節ぐらいのブレイクの箇所で〈めちゃくちゃに吹いてください〉と言われて。あそこでは特に良い塩梅で自分の色を出せたなとは思いました。3年間東京で活動してきた中で培ったサウンドをその2小節に落とし込めたかなと」

浦上想起の2021年のシングル“甘美な逃亡”

浦上想起“甘美な逃亡”の2小節のアドリブを松丸契自身が採譜したもの

――他に歌関連だと、SMTKではラップのための楽曲も作曲されています。

「Dos Monosの荘子itさんのラップを想定して書いた“Otoshi Ana”(2020年作『SUPER MAGIC TOKYO KARMA』収録)と、同じくDos Monosの没 a.k.a NGSさんのラップを想定して書いた“Diablo”(2021年作『SIREN PROPAGANDA』収録)ですね。

SMTKの2020年作『SUPER MAGIC TOKYO KARMA』収録曲“Otoshi Ana (feat. 荘子it)”

SMTKの2021年作『SIREN PROPAGANDA』収録曲“Diablo (feat. 没 a.k.a NGS)”

ラップのために曲を書くということは今まで自分の中では黒歴史でしかなかったので、大真面目に作品にできてとても面白かった。というのも、中高生の頃に(ジョン・)コルトレーンの“Giant Steps”を元にしたトラックにラップを書いたり、保健の授業の最終課題で心血管疾患と別の病気をテーマに2年続けてラップ・ソングを作ったり、どれも恥ずかしすぎて闇に葬った記憶なんです(笑)。けれどこういった曲でも自分のクリエイティヴィティーを胸を張って存分に発揮できると気づいて、すごくやりがいを感じました。

Dos Monosのリメイク・アルバム『Dos Siki 2nd Season』(2021年)の“A Spring Monkey Song”ではシンガー・ソングライターの崎山蒼志さんが歌っていて、SMTKのメンバー全員と小田朋美さんも参加しているんですが、僕は荘子itさんの指示に沿いつつソプラノ・サックスを好きなように入れさせてもらいました。その場で即興演奏を重ね録りしたり、4~5声でハモるセクションを書き出したり、終盤では少しソロがあったり、香り付け程度ですが、ここでも自分が東京で培ってきたサウンドを落とし込めたかなと思っています」

Dos Monosの2021年作『Dos Siki 2nd Season』収録曲“A Spring Monkey Song (feat. 崎山蒼志, SMTK & 小田朋美)”