5. Olivia Rodrigo “good 4 u”
田中「ついに5位です。2021年を象徴するポップアイコンであり最大のライジングスター、オリヴィア・ロドリゴの“good 4 u”! って、〈上半期のベストソングで1位にした“drivers license”はどこへいったんだ!?〉というツッコミがきそうですけど……」
天野「もちろん“drivers license”は今年を代表する曲ですし、失恋を歌ったバラードとしては名曲と言っていいと思います。でも、その後の受容のされ方やサウンドを踏まえて検討したときに、この“good 4 u”のほうが2021年のポップシーンを象徴していると思うんですね。やっぱり、今年の潮流として、ポップパンク/メロディックパンクリバイバルは見逃せないわけです」
田中「なるほど。エモラップ勢がポップパンク的なサウンドやファッションを取り入れたり、ヤングブラッドやマシン・ガン・ケリーが人気を博したりと、近年、その気運は高まっていましたが、今年はいよいよメインストリームで爆発しましたよね。ウィローがブリンク182のトラヴィス・バーカーとコラボした“t r a n s p a r e n t s o u l”がヒットしたことも重要でした」
天野「トラヴィス・バーカーは、確実に今年のキーパーソンですね。あと、アヴリル・ラヴィーンがひさしぶりにパンキッシュなシングル“Bite Me”をリリースしたことも記憶に新しい。“good 4 u”はそういうトレンドの象徴だと言えますし、その意味で超重要曲なんです。ただ、ちゃんと聴くと、そんなにポップパンクっぽい音色やプロダクションじゃないですけどね(笑)。それはさておき、パラモアのヘイリー・ウィリアムズ(Hayley Williams)がソングライティングに関わっていることもあって、シンプルにロックナンバーとして最高です!」
4. Tyler, The Creator “LUMBERJACK”
天野「タイラー・ザ・クリエイターのアルバム『CALL ME IF YOU GET LOST』は、今年のベストアルバムのひとつですよね」
田中「タイラーがラップに立ち返り、DJドラマのプロデューサータグが全編に配され、ミックステープ仕立てでまとめられた、めくるめくヒップホップアルバムでした。同作からのシングルとしてこの“LUMBERJACK”が突然リリースされたときは、びっくりしたことを覚えています。前作『IGOR』(2019年)のポップ路線から打って変わって、〈クラシック・タイラー〉な初期の作風を思わせるスタイルになっていたので」
天野「アルバムが素晴らしかっただけに一曲を選ぶのが難しかったのですが、2021年を語るうえでタイラーを無視するわけにはいかず、そうなるとやっぱりこの曲かなと思ったんです。リリックは、グラミー賞を勝ち得たことなどセルフボースティングを中心にしたものですが、いまのタイラーがラップすると説得力がありますよね。バックスピンやダーティーなブレイクビーツでまとめ上げたダークなヒップホップサウンドは、まさにタイラーらしさとヒップホップらしさの融合。ドープで強烈だけど、1分ちょっとで終わってしまう鮮烈さも印象的でした」
3. Japanese Breakfast “Be Sweet”
天野「いよいよトップ3! 〈PSN〉は、ジャパニーズ・ブレックファストの“Be Sweet”を3位に選びました。もともとインディーシーンでは確固たる支持を得ていたジャパニーズ・ブレックファストですが、今年のアルバム『Jubilee』でポップな才能を開花させ、より高い強度の作品を作り上げて、大きなフィールドの上に立った印象です」
田中「アルバムのなかでもこの“Be Sweet”は、とびきりキャッチーでポップ。きらびやかなギターのカッティングにクールなディスコビートが魅力的なダンスポップです。ワイルド・ナッシングのジャック・テイタム(Jack Tatum)と一緒に制作された曲ですが、テイタムのいい仕事っぷりも際立っています。サウンドはいつものワイルド・ナッシング節を磨き上げたものですが、ミシェル・ザウナー(Michelle Zauner)のコケティッシュな歌声と合わさることで、すごく中毒性の高い曲になっていると思います」
天野「ミシェルは今年、韓国系アメリカ人の視点から母との関係性やその死を綴った初の著書『Crying In H Mart』を刊行したんですよね。この本はアメリカで絶賛されていて、映画化が決定、さらにバラク・オバマが選ぶ2021年のお気に入りリストにも選出されました。邦訳されるのを待っています!」
2. Little Simz “Introvert”
田中「リトル・シムズが今年リリースした4作目『Sometimes I Might Be Introvert』は、このラッパーの評価をさらに高めた傑作でした。タイトルからもわかるとおり〈introvert=内向的〉な自身の内面を掘り下げつつ、人種差別や女性の貧困といった現代のイシューに言及したポリティカルな側面も持ったアルバムです。プロデュースを担ったインフロー(Inflo)による、オーガニックな生楽器の音を活かしながらも、緊張感を持続させたサウンドも聴き応え十分ですよね」
天野「インフローは自身のバンド、ソー(Sault)でも注目を集めました。リトル・シムズ以外にクレオ・ソルやアデルの新作にも貢献していて、一年を通して大活躍したプロデューサーです。そんな彼が手がけたこの“Introvert”は、勇壮なファンファーレとストリングス、マーチングドラムを重ねたイントロにまず耳を奪われます」
田中「一曲を通して勇猛なムードを保っていますが、ギターのアルペジオやピアノの音はメランコリアを醸し出していますよね。黒人女性が置かれている状況への怒り、同胞に向けた慈しみ、さらに人種を越えた連帯への願い……と、さまざまなエモーションを組み込んだリリックと、しっかりと並走している見事なアレンジだと思います。6分と長めの曲ですが、じっくりと歌詞を読みながら聴いてほしいです」
1. Lil Nas X “MONTERO (Call Me By Your Name)”
Song Of The Year
天野「〈Song Of The Year〉はリル・ナズ・X“MONTERO (Call Me By Your Name)”です! 実は、リル・ナズ・Xの曲は、上半期のベストソングでスルーしてしまっていました。ただ、大きな話題になった“INDUSTRY BABY”のミュージックビデオを含めて、2021年を代表するポップスターは彼しかいないし、そんな彼のもっともパワフルな曲はこれしかないなって思ったんですね」
田中「2019年、TikTokなどを介して大ヒットしたカントリーラップナンバー“Old Town Road”で成功を掴んだリル・ナズ・Xは、同年にゲイであることをカミングアウトしました。その後、コロナ禍における内省を経て、自身のセクシュアリティー、クィアネスを前面に出した表現をするようになり、アーティストとして大きな変化を迎えたのが今年のリル・ナズ・Xでしたね」
天野「そうやってクィアネスを肯定してめちゃくちゃポップに打ち出してたことこそが、リル・ナズ・Xを〈2021年の顔〉と呼ぶのにふさわしい理由だと思っているんです。この曲の副題〈Call Me By Your Name〉は、少年と青年の一夏限りの恋を描いた映画『君の名前で僕を呼んで』(2017年)に由来していますしね。“MONTERO”はすごくセクシュアルなラブソングですが、もちろん同時にキャッチーでもあって、Billboard Hot 100ですぐさま1位を獲得しました」
田中「相棒のテイク・ア・デイ・トリップ(Take A Daytrip)と作り上げたラテンポップっぽいベースヘビーなビートや独特のメロディーが癖になりますよね。ちょっと笑っちゃうような神話的なイメージを用いたビジュアルの面でも〈リル・ナズ・Xの世界〉を築き上げていて、非の打ち所がないと思います」
天野「黒人でありゲイである、という二重のマイノリティー性をポップソングに昇華させて、シーンを塗り替えた今年のリル・ナズ・Xは、本当に素晴らしかったと思います。〈今年の一曲〉は、彼の“MONTERO”をおいて他にないでしょう!」