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のん 2017年
2019年

 かつては家業の型物写真に反抗し、オルタナな表現スタイルを志向したものの、一周回ってまた元へと戻っていくことを選択した、という平間の道行きが、本写真展を構成するうえで重要なストーリーなのだと佐藤は話すが、当の本人はそこにどんなものを見出せると考えているのか。

平間「全体を包括してみると、自由でありたい、ってことになるのかな。80年代の逃走論じゃないけど、自分に付きまとうイメージからも、自身のスタイルからもずっと逃げ続けてきた。僕って見る人の角度によってぜんぜん違って映るみたいで、〈MOTOR DRIVE〉のイメージを抱き続ける人もいるし、2001年に〈捨て猫ミーちゃん〉を出したときはミーちゃんの平間さんだった。ところで、写真って偶然性って言葉がよく使われるけど、僕は即興性のほうがピンとくる。偶然性には何か受動的な印象があるから。僕の撮影ではいつも何かアクシデントやハプニングが起こるように意図的に仕掛けていくけれど、それは写真の即興性を高めるための手段。音楽で即興といえば、既成のスケールなどから逸脱し続ける行為ですよね。メディアから写真館へと辿り着き、この次どこに行くかわからないけど、即興をやり続けることで得られる自由さはずっと意識して続けると思う」

2021年

 本写真展が写真家・平間至の旅路がいまだもって現在進行形である事実を明示する点においても、メイン・ヴィジュアルとなる写真が撮りおろしの新作なのは必然のこと。でもって、これがとても素晴らしいのである。三脚に据えたカメラの傍らで荒々しく髪を振り乱すモデルを映したその1枚は平間写真のエッセンスがみごと凝縮されていて、写真からグルーヴィーなサウンドが明瞭に聴こえてくるところもまたいい。

平間「僕にとってカメラは楽器。カメラはすごく身体的なものだからいつも〈奏でる〉感じはある。僕、ハッセルブラッドとか二眼レフがダメなんですよ。一眼レフで被写体を覗いているのが合っている。自分の撮るときのグルーヴがしっかりあるんで」

 すべては味わったことのない最高のグルーヴを得るために。〈インプット音楽、アウトプット写真〉を基本法則とし、さまざまなスタイルに取り組みながら表現の振り幅を広げてきた彼の稀有なキャリア、それに強靭なまでのサービス精神や尋常じゃないフットワークの軽さなどをこの写真展が雄弁に物語ってくれるであろうことだけは想像がつく。ふたりにも見どころを語ってもらおう。

佐藤「私が写真展を開催する際はいつも、ただ作品を見てもらうのではなく、お客さんがその世界に入っていって文字どおり体感できるものにしたいと考えます。良いライヴを観たときのような感覚を味わってほしい。そう願いながらストーリーを構築し、展示するんですが、考えてみたらそういうライヴ感覚って平間さんの写真に共通しているな、ってちょっと前に気づきました。きっと平間さんのグルーヴを感じられる写真展になると思います」

平間「このあいだ写真を張り付けたレイアウトを見ていて、あぁ自分の写真って楽しいんだな、と思った。楽しいって言葉は簡単に使われがちだけど、正直そう思えたんです。この写真展を見に来て、写真そのものを見るだけではなくて、写真というメディアの面白さだとか、まだまだいろんなことができる大きな可能性を含んだ楽しいものだと感じてもらえたらいちばん嬉しい。きっとそういう展示になると思うので」

 君もやってみたら?っていう念をこちらに向かって投げつけてくるような場所。なんだかパンクのライヴ会場みたいだけど、至って平間至的な空間じゃないかと得心する。きっと刺激的で楽しいに決まっている。

 


PROFILE: 平間至(Itaru Hirama)
1963年、宮城県塩竈市生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、写真家イジマカオル氏に師事。躍動感のある人物撮影で、今までにないスタイルを打ち出し、写真から音楽が聞こえてくるような作品により、多くのミュージシャン撮影を手掛ける。近年では舞踊家の田中泯氏の「-場踊り-」シリーズをライフワークとし、世界との一体感を感じさせるような作品制作を追求している。2006年よりゼラチンシルバーセッッションに参加、2008年より〈塩竈フォトフェスティバル〉を企画・プロデュース。2013年には、俳優・綾野剛写真集「胎響」(ワニブックス)や、田中泯氏との写真集「Last Movement ―最終の身振りへ向けて―」(博進堂)の発表と共に個展も行い、大きな注目を集めた。2012年より塩竈にて、音楽フェスティバル〈GAMA ROCK〉主催。2015年、東京・世田谷の三宿に平間写真館TOKYOをオープン。 https://hirama-shashinkan.jp/

 


寄稿者プロフィール
桑原シロー(Shiro Kuwahara)

1970年、三重県尾鷲市生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、ひょんなことから音楽ライターとなり、さまざまな媒体で記事の執筆を開始。タワレコが発行するフリーマガジン〈bounce〉誌の編集部を経てフリーランスでの活動をスタート、現在に至る。主な執筆ジャンルはポピュラー音楽全般。ほかにも映画、芸能などを得意ジャンルとする。最近では、那智勝浦を拠点に活動する異能のギタリストのマネージメント業務もこなしている。

 


EXHIBITION INFORMATION

平間 至 写真展 すべては、音楽のおかげ
Thank you for the photographs!

2022年4月2日(土)~2022年5月8日(日)京都 美術館「えき」KYOTO(京都駅ビル内ジェイアール京都伊勢丹7階隣接)
開館時間:10:00~19:30(入館締切:閉館30分前) ※新型コロナウイルス感染症の状況により、変更する場合がございます

■入館料(税込)
一般/高・大学生/小・中学生:900円(700円)/700円(500円)/500円(300円)
※()内は前売料金。〈障害者手帳〉をご提示のご本人さまとご同伴者1名さまは、当日料金より各200円割引
販売場所:美術館チケット窓口(休館日を除く)/京都駅ビルインフォメーション/チケットぴあ(Pコード685-920)/ローソンチケット(Lコード55158)

主催:美術館「えき」KYOTO/京都新聞
後援:エフエム京都
広報協力:FM COCOLO・FM802
協力:平間写真館TOKYO/タワーレコード株式会社/富士フイルム株式会社
企画制作:株式会社コンタクト
お問合せ(ジェイアール京都伊勢丹):075-352-1111(大代表)
※展示作品やイベント内容が変更、または中止になる場合がございます。予めご了承ください
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、入館の際、マスク着用・検温・消毒をお願いしております
https://kyoto.wjr-isetan.co.jp/museum/exhibition_2204.html

FUJIFILM SQUARE 企画写真展
「写真家・平間至の両A面」
アー写/エー写

2022年6月10日(金)~2022年6月30日(木)東京・六本木 FUJIFILM SQUARE 富士フイルムフォトサロン東京 スペース1・2(東京ミッドタウン・ウエスト)
開館時間:10:00~19:00(入場は18:50まで。最終日は14:00まで)
会期中無休
https://fujifilmsquare.jp/exhibition/220610_01.html