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より普遍的なミュージシャンとして歩み出した作品

今作は、オコナーにとっては出世作ともいえる『Apricot Princess』(2017年)や、メジャーデビュー作となった前作『Pony』(2019年)が持っていた華やかさや、モダンなポップスとしての強度は少し落ち着きをみせつつも、その影でともすれば当たり前のことのように見過ごされていたソングライターとしてのレックス・オレンジ・カウンティが持つオーセンティックな魅力を今一度リスナーへと気付かせるレコードなのではないだろうか。

〈サウスロンドンの次世代ポップアイコン〉のような謳い文句の書かれた包み紙をそっと剥がし、より普遍的なミュージシャンとして歩いていくような意思を感じてしまうのだ。もしかしたら何十年後、彼の作品のなかでいちばん大切にされるのは案外こういうレコードなのかもしれない。

 

彼の暮らしにいちばん近いレコード

当時、彼自身に降り掛かったトラブルを発端にしていくつかの曲が書かれたという『Pony』に続き、今作でも彼はとても個人的な物事や恋愛について歌っている。めくるめく日々への疲労感、拒絶されることへの恐れ、眠りを妨げる朝日、変わってしまった自分とどこかへ行ってしまった〈君〉、タイラー・ザ・クリエイターを招いた“OPEN A WINDOW”で歌われているような、窓ならば自分で開けられるけどここから出ていくためにはドアを誰かに開けてもらわないといけないといった閉塞感。それは音楽家としての自分、そしてスターになってしまった自分への素直な感情であり、〈本当はどうでもいいや〉と投げ出してしまいきれないものなのかもしれない。

『WHO CARES?』収録曲“OPEN A WINDOW”
 

そんな個人的な気持ちや状況を、ストーリーに仕立てるでもなく、なにかキャラクターのようなものを作り上げるのでもなく、シンプルにそのまま〈うた〉にのせ自分の声で歌う。僕はそんなこのレコードの温度感がたまらなく好きだ。彼の暮らしにいちばん近いレコードなんだと思わせてくれるからだ。

リビングの掛け時計と、その下で回るこのレコード。そのどちらにも書かれた〈Who Cares〉ということば。どちらも同じように、暮らしのなかで少しだけ僕を安心させてくれるのだ。

 


RELEASE INFORMATION

REX ORANGE COUNTY 『Who Cares?』 Rex Orange County/ソニー(2022)

リリース日:2022年3月11日
国内盤リリース日:3月30日
品番:SICP-6443
価格:2,400円(税別)
歌詞・対訳・解説・特製キャラクターステッカーつき、ボーナストラック1曲収録
配信リンク:https://rexorangecounty.lnk.to/WHOCARES_ALAW

TRACKLIST
1. KEEP IT UP | キープ・イット・アップ
2. OPEN A WINDOW (feat. TYLER, THE CREATOR) | オープン・ア・ウインドウ (feat.タイラー・ザ・クリエイター)
3. WORTH IT | ワース・イット
4. AMAZING | アメージング
5. ONE IN A MILLION | ワン・イン・ア・ミリオン
6. IF YOU WANT IT | イフ・ユー・ウォント・イット
7. 7AM | 7AM
8. THE SHADE | シェイド
9. MAKING TIME | メイキング・タイム
10. SHOOT ME DOWN | シュート・ミー・ダウン
11. WHO CARES? | フー・ケアーズ?
12. MAKING TIME (Alternative Version) | メイキング・タイム (オルタナティヴ・バージョン)※国内盤のみのボーナストラック

 


Homecomings

LIVE INFORMATION
2022 TOUR『Somewhere In Your Kitchen Table』

2022年4年2日(土)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
開場/開演:17:00/18:00 
前売り:4,800円
★ライブの詳細はこちら

 

RELEASE INFORMATION

Homecomings 『Moving Days』 IRORI/ポニーキャニオン(2021)