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Brian Wilson『Brian Wilson Presents Smile』(2004年)

BRIAN WILSON 『Brian Wilson Presents Smile』 Nonesuch(2004)

世界一有名な〈未完成アルバム〉だった『Smile』は、『Pet Sounds』に続く大名盤にすべくブライアンがヴァン・ダイク・パークスとともに完成をめざしていたものの、さまざまな事情によって制作を断念。ブライアンはそのショックで以後、長い長い隠遁生活へ。そんな〈負〉のイメージが強い作品にケリをつけるべく、30年以上の歳月を経てブライアンみずからが新たに録音に挑み、完成させてしまったのが『Brian Wilson Presents Smile』だ。神妙な想いにすらさせるアカペラコーラスによるオープニング曲“Our Prayer / Gee”をはじめ、“Heroes And Villains”“Surf’s Up”“Good Vibrations”など単体で聴いても楽しめる名曲揃いだが、本作で描かれる古き良きアメリカの壮大な風景は作品を通して得られるもの。その完成度の高さは、ブライアンに初のグラミー賞をもたらすまでに。ちなみに、本作の再現ライブの模様は「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」のなかにも登場、ノリノリでステージを楽しむブライアンの様子が映し出されていたが、同公演での彼はよほど自信があったのか、笑顔も多く客席を何度も見渡しながらパフォーマンスを披露。すべての楽曲を演奏し終え、観客がスタンディングオベーションでブライアンたちに最大級の賛辞を送るなか、オーディエンスのなかに混じって感慨深い表情を浮かべるヴァン・ダイク・パークスの姿に感涙してしまう。

『Brian Wilson Presents Smile』収録曲“Our Prayer / Gee”

 

「エンドレス・ハーモニー」(98年)

THE BEACH BOYS 『エンドレス・ハーモニー』 ユニバーサル(1998)

ビーチ・ボーイズのドキュメンタリーといえば、名作「ザ・ビーチ・ボーイズ/アン・アメリカン・バンド」がその最高峰として語られる機会が多いものの、85年発表の作品ということもあり、その後の展開も知ることができる本作「エンドレス・ハーモニー」(98年)も必見。バンドのメンバーたちが当時を語るほか、エルヴィス・コステロやショーン・レノン、キャロル・ケイ、グレン・キャンベルなど影響を受けたアーティストや関わりがあったミュージシャンたちも登場する。ブライアンが『Smile』の制作を断念した以降も、バンドは悪戦苦闘しながら良作を作り続けていたことやヨーロッパでは絶大な人気を獲得していたことが語られるなど、人気絶頂期以外の物語が語られることがファンとしてはなによりも嬉しい。そして、激動の歴史を回顧するブライアンは当時、ソロアルバム『Imagination』(98年)の制作中であったこともあり、調子は悪くなく冗舌。スタジオにて卓をいじりながら、“Kiss Me Baby”や“Wouldn’t It Be Nice”の種明かしを実践する貴重な場面がある一方で、精神的な限界を迎えてツアーを断念した話や弟の死について辛そうに語るシーンもあり、その点は「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」にも通じる。また、「(フィル・)スペクターの音は怒りだが ブライアンは常に愛を求めた」(テリー・メルチャー)、「“Kokomo”は最高だ」(ブライアン・ウィルソン)、「彼らを聴くと明るくなる。毎日聴くよ」(ショーン・レノン)など、出演者による金言が多いのも注目だ。

『Endless Harmony Soundtrack』収録曲“Endless Harmony”

 


FILM INFORMATION
ブライアン・ウィルソン/約束の旅路
監督:ブレント・ウィルソン
製作:ティム・ヘディントン/テリサ・スティール・ペイジ/ブレント・ウィルソン
出演:ブライアン・ウィルソン/ジェイソン・ファイン/ブルース・スプリングスティーン/エルトン・ジョン/リンダ・ペリー/ドン・ウォズ
2021年/アメリカ/英語/93分
原題:Brian Wilson: Long Promised Road

字幕監修:萩原健太
配給:パルコ ユニバーサル映画
宣伝:ポイント・セット
Ⓒ2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC
TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国にて絶賛公開中
https://www.universalpictures.jp/micro/brian-wilson