武藤祐志がジャズリスナーにお薦めするメタル
――それでは、ここからはこれまでにインタビューした全員に訊いている質問ですが、武藤さんが考える〈ジャズリスナーにお薦めしたいメタル〉があれば、教えて下さい。
「スクリーミング・ヘッドレス・トーソズ。ギターはメタルっぽいディストーションもかかってて、音楽的にはファンクとかも入ってるんだけど、レッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)をジャズ化したようなバンドというか。ジャズの人も聴いてるかも。
あと、ザヴィヌル・シンジケートのライブアルバム、ライブ映像は薦めたい。アルバムの楽曲をどういう風にライブで再構築するかとか、分解するかが面白いのと、ザヴィヌルは本来ジャズだけど、周りのメンバーがメタリックで本当にぶっとんだプレイヤーばっかりで、凄いエネルギーなんです。
もうちょっとメタル寄りなら、ジェイムズ・マーフィーってギタリストがいて、彼のソロ作は面白いかも。テスタメントとかオビチュアリーとかでギター弾いてた人で、本当に凄まじいギターを弾くんです。メタルのバンドでは超絶メタリックに弾いてるけど、ソロアルバムでは複雑な変拍子の上でフレージングしてたりとかする。本人もグレッグ・ハウ(ギター)とか、色んなジャズフュージョン系の人と一緒にやってたりするので、そういう要素もあるかも。
あとは、エイシスト(Atheist)っていうバンド。フロリダのデスメタルバンドなんだけど、ちょっと変わってて。デスメタルの人たちってむっちゃ上手い人たちばかりだから〈演奏を極めた結果デスにいく〉みたいなところがあるけど、このバンドはサンバとかのブラジル音楽を取り入れているんです。デスメタルに“そよ風のサンバ”ってサンバの曲を取り入れたりとかしてるんだよね。曲名も〈ウォーター〉とか〈グリーン〉とか、そんな感じのものが多くて。環境保護系デスメタルかな(笑)」
武藤祐志がメタルリスナーにお薦めするジャズ
――では逆に、メタルリスナーにおすすめするジャズを教えて下さい。
「マイケル・ブレッカー(テナーサックス)のライブで、マイク・スターンが”Nothing Personal”(87年)を弾いてるやつ。ディストーションをかけまくって高速で弾いてるんだよね。
自分もMI JAPANで教えてたんだけど、メタルの子たちにこれを聴かせると、100%〈スッゲー!〉って食いついてた(笑)。MIで教えてた頃は、ここら辺のプレイを譜面化することで、自分も大分勉強になりました。
あと、やっぱりトライバル・テックかな。『Illicit』(92年)というアルバムの”The Big Wave”って曲とか。
あともう一つは、ジャズファンに向けても、メタルファンに向けても、ザヴィヌル・シンジケートかな。スタジオ録音はおとなしくて気持ち良くて、聴いてて寝れるくらいだけど、ライブは凄いですよ。ギタリストは結構変わってるけど、全員馬鹿みたいに熱い。自分はゲイリー・ポールソンが一番好き。衝撃的だったね、あの人を初めて観た時は。ドリルを貫通させたような、穴がボコボコ開いたアイバニーズ系のギターを弾いてて。
ザヴィヌル・シンジケートは海賊盤も全部探して買ったけど、ハズレもいっぱいあって。ゲイリー・ポールソンがジャケットに載ってるから買ったら、違う人が弾いてるのもあった(笑)。なんでこんなにゲイリー・ポールソン参加の作品が少ないのかなって思ってたら、ザヴィヌルが亡くなった後に掲載されたインタビューで、20代のうちに引退してたってわかったんだよね」
〈爆音〉のフィジカルで原始的な力
――ありがとうございました。そして、これも皆さんに訊いてるんですが、メタルの経験がジャズのプレイや考え方にどう活かされていますか?
「やっといて良かったと思うのは、〈アンプを爆音で鳴らす〉という経験ができたこと。例えば部屋がうわーって振動するような大きさの音って、そういう音楽をしてないと経験できないし。ちょっとでかい音で弾くのと爆音で弾くのとは、違うじゃないですか。爆音で弾くと、部屋とか足元とかが揺れるでしょ。そういうエネルギーって体験しないとわからないから、やっておいてよかったと思う。今もやってるけど(笑)。そういうアカデミックじゃないフィジカルな部分って原始的な音楽の感じ方だと思うんですけど、その体験は自分の中で役に立っていると思っています。もしこれがクラシックギターだけをやってたとしたら、絶対できなかった体験だから。
OUTRAGEの阿部洋介さん(ギター)と時々遊ぶんですけど、凄いですよ、出す音の量が。壁が揺れるんですよ。周りの音が聞こえないじゃんっていうぐらいの音量で弾いてる。でも、こういう音が必要な空間ってあるし、それにしか出せない説得力もあるよなって思ったりする」
――では、メタルをやっていたことで、考え方において影響を受けたことってありますか?
「ネットが広がる前から『Player』とかを読んでたから、アティテュードに関しては、めっちゃ美化されたメタルの人たちに影響受けてます。本当にそうだったかは知らないけどイングヴェイ(・マルムスティーン)が1日10何時間練習してたとか、そういうのですね。MIに行った時も、1日20時間ぐらい練習しないとついていけないんじゃないか、とか思って。それが普通なんじゃないかと思うような、アスリート的な考え方ですね」
――今まで話を訊いた人とはまた全然違う道で、面白いです。
「普通にブルースロックとかを聴いて、ジミヘンをコピーしてとか、僕にはそういう経験がないから。本当にメタルからザヴィヌル・シンジケートにいきなり行っちゃって、その影響から生まれた自分なりの音楽性で色んな音楽に参加している感じ。
アフリカの民族音楽をやってる人たちにもよく呼んでもらって、参加しているんですよ。それもザヴィヌル・シンジケート経由のアフリカからの影響ですかね。ザヴィヌルもアフリカ音楽をやってたから」
UFO et MAYUに武藤参加したらこんな感じ。 pic.twitter.com/kJ1giD4wmN
— 武藤祐志 Ver.3.0ギタリスト MUTO YUJI GUITARIST (@yujimuto) April 5, 2022