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――この舞台に出演する人たちは、実際に中華街に住む人たちがほとんどですね。舞台芸術の文脈では、ドキュメンタリー・シアターやポストドラマ演劇と呼ばれる作品かと思います。

ヤン・ジェン「今回はドキュメンタリー・シアターの美学や形式を発展させようと、単なる記録や映像ではないものを考えています。なので、プロのダンサーにも出演してもらいますが、25人もの一般の人たちに出演してもらう。リサーチをしても思った以上に多様で、社会的なアイデンティティはもちろん、個人のアイデンティティ、セクシャリティのアイデンティティなど、たくさんの経験を持っている人たちに出てもらう予定です」

――それだけの人数が舞台に上がることはもちろんですが、そこで、その多様性を提示する難しさはなんですか?

ヤン・ジェン「難しさは、みんなのリハーサルのスケジュールを合わせることですかね(笑)。一般の方々たちに自分らしく表現してもらうことは難しくないことですが、彼らにこの舞台に出てもらうことで、刺激になって面白いとチャレンジしてもらうことが大事ですね。たとえば、ダンスのシーンでは、誰でも踊れるはずであっても、それぞれの動き、自分なりのものがある。だから、いろいろな質問をしたり、ある時の気分を想像してもらったり、自らの動きが自然と出るような導きをしています。私がやっているのはその動きを汲み上げて、テンポをつけることですね。身振りのなかであらわれる、それぞれの人たちの動きを出したい」

陳天璽「たとえば最近あったことを三つの動きで見せてほしいとか、ハッピーだった時の動きを三つ出しスピードを変えて踊る。遅く、速く、すごく遅くとか、何を表現しているのか、私もよくわからないことだらけです(笑)」

――昨年のワーク・イン・プログレスと比べて、シーンもかなりちがうみたいですね。

ヤン・ジェン「ワーク・イン・プログレスは、ある意味でコンセプトに過ぎないものであって、まだ作品とは言えない。何をやろうとしているのか、目的を観客に伝えるためでした。今回は作品に求められる、芸術的な部分、想像的、抽象的、エモーショナルな部分を含めて、それぞれがはっきりしてくる」

――最後にプロジェクトの今後の展望を教えていただけますか?

陳天璽「いままで世界中のチャイナタウンをめぐってきたので、このコンセプトがどのような作品として展開されるのか、私も楽しみです。このプロジェクトは、トロントやモントリオール、アムステルダムなどでも行われるらしいので、そこに住むチャイナタウンの友人たちに声をかけ始めています」

ヤン・ジェン「チャイナタウンなど、異なるアイデンティティをもつ人たちを通じて、世界中でこのプロジェクトを行いたいですね。ただ、そこにあるのは単なるチャイナタウンの歴史や海外にいる中華系の人びとだけでなく、この作品を通じて、人間の複雑さやコスモポリタニズムを観客に感じてほしい。チャイナタウンは具体的な例ですが、ひとつのきっかけにすぎない。より多くのものを見出していただきたいですね」

 


杨朕(ヤン·ジェン)
1990年代以降のいわゆる「中国新生代」の振付家/パフォーマンス作家。社会的文脈における個人と集団の存在形態と美学的関係性を考察、提示している。2014年に中央民族大学舞踊学院を卒業、「革命遊戯三部作」と題した一連の作品に取り組み、『少数民族』(2017)や『Delta』『Destination』(2019)は国際的にツアーしている。2022年11月に上海で最新作『Hommage』を発表予定。

陳天璽(ちん・てんじ)
早稲田大学国際教養学部教授、NPO法人無国籍ネットワーク代表理事。横浜中華街生まれ。国際関係に翻弄され生後間もなく無国籍となり、30年程無国籍者として生活。その経験から国籍、アイデンティティに注目し、華僑華人、世界のチャイナタウン、移民、難民、無国籍者についての研究や活動に従事。著書に『無国籍』『華人ディアスポラ』『無国籍と複数国籍:あなたは「ナニジン」ですか?』『にじいろのペンダント』など。

 


INFORMATION
ジャスミンタウン
2022年12月10日(土)神奈川・横浜 KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
​開演:18:30
2022年12月11日(日)神奈川・横浜 KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
開演:17:00
コンセプト・振付:ヤン・ジェン
ドラマトゥルギー:李怡純子
リサーチアドバイザー:陳天璽
出演:横浜中華街のみなさん
ゲストダンサー:三木珠瑛/村上生馬/リアント/李怡純子/李真由子
https://ypam.jp/

YPAM(横浜国際舞台芸術ミーティング)は、同時代の舞台芸術に取り組む国内外のプロフェッショナルが、公演プログラムやミーティングを通して交流し、舞台芸術の創造・普及・活性化のための情報・インスピレーション・ネットワークを得るために集まるプラットフォーム。ほとんどのプログラムは一般の観客にも参加できる。
詳細はypam.jpまで。

 


INFORMATION
YPAM – 横浜国際舞台芸術ミーティング 2022
2022年12月1日(木)~18日(日)
主会場:KAAT神奈川芸術劇場/BankART KAIKO/横浜赤レンガ倉庫1号館/廣東會館倶樂部/Amazon Club

主催:横浜国際舞台芸術ミーティング実行委員会(公益財団法人神奈川芸術文化財団/公益財団法人横浜市芸術文化振興財団/特定非営利活動法人国際舞台芸術交流センター)
共催:横浜市文化観光局/公益社団法人全国公立文化施設協会
助成:公益財団法人セゾン文化財団
協力:BankART1929/特定非営利活動法人黄金町エリアマネジメントセンター/横浜中華街発展会協同組合
後援:外務省/神奈川県/国際交流基金
令和4年度文化庁文化芸術創造拠点形成事業