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遊び心とユーモア

 テイラー自身によると今作は〈もっともダークなアルバム〉とのことだが、音使いやムードに関しては、ふんわり、軽やか。エレクトロニックな音色が躍動感に溢れている。メランコリックだが、どこか吹っ切れて、突き抜けている印象も。彼女と共に曲作りとプロデュースを手掛けたのは、ブリーチャーズのジャック・アントノフ。10年来の親友である彼が、プログラミングやシンセ、ドラム、ギターなど、演奏面でも協力する。ケンドリック・ラマーらを手掛けるサウンウェイヴも数曲に参加。さらに2020年作『folklore』と『evermore』で大役を果たし、過去作の再録アルバムにも関わるアーロン・デスナー(ザ・ナショナル)がボートラなどで共作/プロデュースを担当する。

 また意外なところでは、レニー・クラヴィッツの娘である女優/歌手のゾーイ・クラヴィッツがオープニング曲“Lavender Haze”の共作者に名を連ねていたり、テイラーのパートナーである俳優のジョー・アルウィンがまたもやウィリアム・バワリー名義で共作していたり、たまたまスタジオにいたという俳優のディラン・オブライエンも“Snow On The Beach”にドラマーとして参加。ディランは、テイラーが監督した昨年11月発表の映像作品「All Too Well: The Short Film」(アルバム『Red (Taylor’s Version)』収録の“All Too Well”の10分ヴァージョンを基にしている)で共演した仲。またその“Snow On The Beach”には、ラナ・デル・レイがデュエット参加しているのも大きな話題だ。アントノフが引き合わせたと思われる両者のコラボは、どちらのファンからも歓迎されそうなアルバムのハイライトのひとつとなっている。同曲の中では〈ジャネットみたいに“All For You”〉という一節が歌われ、名指しされたジャネット・ジャクソン本人が〈夢みたい〉と大喜びでSNSに投稿するビックリな展開も。そんな遊び心やユーモアがちりばめられた、フットワークの軽さも本作の特徴だ。“Bejeweled”のMVでは、シンデレラを思わせる役を演じるテイラーが床磨きをしながら、ローラ・ダーンやハイム3姉妹に虐められる、というひねくれた筋書きで笑わせてくれる。