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去勢されない個性

 小気味良いガレージ・ロックから、疾走するパンク・チューン、早口言葉のような響きが新鮮かつ痛快なイタリア語ナンバー、フザケてるとしか思えない“Bla Bla Bla”のような脱力系チューンまで、前作の延長線上にありながらも、さらに一歩踏み出している感じだろうか。それぞれの楽曲が、明確なベクトルを持ってそれぞれ異なる多様性を携えている。デビュー当初のアークティック・モンキーズやホワイト・ストライプスがマルーン5と合体したかのよう……なんて既成のロック・バンドを例えに出すのはヤボかもしれないが、突然変異のワクワク感や驚きを失うことなく、ヴァラエティーに富んだロックの醍醐味を堪能させてくれる。

 今作のレコーディングは母国イタリアのローマやミラノ、さらにLAで行われ、以前から彼らを手掛けてきたファブリツィオ・フェラグッソが共同プロデュースを主に担当。それに加えてマックス・マーティン、ラミ・ヤコブ、マットマン&ロビンといったスウェーデン出身のポップ系プロデューサーたちも多数起用され、共作者にはジャスティン・トランターやスライことシルヴェスター・ウィリー・シヴァートセン、キャプテン・カッツのメンバーらポップ畑に強いソングライターの名が並んでいる。が、決して欧米ポップ・ロックのテンプレートに収まってしまうのではなく、しっかりマネスキンらしさをキープ。〈本物のロックとは?〉〈ロックが復活?〉〈ロックの未来は?〉などという手垢の付いた不毛な議論とは無縁のまま、グッチを着込んだ4人は自分たちの個性を見失うことなく、まったく去勢されることなく、痛快なマネスキン・ロックを届けてくれている。 *村上ひさし

マネスキンの作品を紹介。
左から、2017年のEP『Chosen』、2018年のアルバム『Il ballo della vita』、2021年のアルバム『Teatro d’ira – Vol. I』(すべてRCA Italy)

左から、2022年のサントラ『Elvis』(House Of Iona/RCA)、トム・モレロの2021年作『The Atlas Underground Flood』(Mom+Pop)