
〈Mood Swings(感情の起伏)〉を出すことで人間は変われる
――新作の話をしましょう。ソロ名義でのフルアルバムとしては今作『Mood Swings』が6作目になりますが、アルバムのテーマを教えてください。
「人間は誰でもアップ&ダウンがあるので、それをキャプチャーしたものにしたいなと。普段ニコニコ笑っている人は、実は陰で大きな痛みや苦しみを抱えていることもある。それを念頭に置きつつ、そうした陰の部分も表に出すことによって人間は変わることができるんじゃないかと思った。それを『Mood Swings』(感情の起伏)というタイトルで言い表してみたんだ」
――アルバムジャケットでマスク(仮面)を剥いでいるのも、人間の二面性を表したものだったのですね。
「そう。自分はハッピーなタイプだけど、でも人間だから、みんなと同じように寂しい時もあるし、不安だったり悲しかったりもする。

例えば“Soul”という曲は、心が壊れてしまって誰かに愛されたい、愛が欲しいという歌で、時間をかけて自分を変えていく、難しいけどやってみるといったことを歌っているんだ。
あと、“Celebrate”は、大切な人に花をプレゼントして、自分の人生にいてくれることを祝福するような歌。人生、あまりにも早く過ぎ去ってしまって大切な人の存在を祝う機会もなかなかなかったりするから、歌にしてみたいなと思って。全部セックスの歌ばかりになっても……ね。肉体的だけじゃなく精神的に愛すること、そして、楽しかったり辛かったりする人間のあらゆる感情をまとめた作品にしたかったんだ」
クラシックなR&Bの要素を盛り込むのは大事
――トロイ・テイラーがプロデュースした“You And Me”のビートはアトランタベースに通じていますが、新作に限らず、あなたの作品には90年代から現在までのアトランタR&Bのエッセンスが詰まっているような印象を受けます。
「実はあまり意識はしていなかったけど、アトランタには15年も住んでいるしね。“You And Me”に関しては〈レペゼン・アトランタ!〉みたいな感じになるのかな。
自分としてはスケートソングっていう意識で作った。アトランタでは土曜の夜に遊びやデートでスケート場に行くことがよくある。だから、90年代のアトランタR&Bのエッセンスが入った曲をアトランタベースぽい感じで作ってみたかったというのは確かにあったね。
最近、ちょうどこの曲のミュージックビデオを作っていたところなんだ」
――オープニングを飾る“Waterfalls”は出色の出来だと思います。まるでプリンスのバラードにアーニー・アイズレー(アイズレー・ブラザーズ)のギターが絡みついたような曲です。OGパーカーとの連名作の冒頭で披露していた“Soon As I Get Home”ではアイズレー・ブラザーズの“Between The Sheets”をサンプリングしていたので、アイズレーに特別な思い入れがあるのかとも感じたのですが。
「イェー! アイズレーはアイコニックな存在でもあるし、ストーリーテリングがすごく上手な人たちなんだ。あと、R&Bならではのクラシックなメロディ。時の試練に耐えるようなエバーグリーンな曲を数多く作っている。18歳から65歳、それ以上まで、誰もが共感できるような曲をね。
そうしたクラシックなR&Bのエッセンスを曲に盛り込むことも大事だと思っていて。聴いたらすぐにわかるというか、覚えてもらえるようにね。だから、サンプリングすることもある。初めて聴いた曲でもどこかで聴いた覚えがあるような印象深いフレーズを曲に入れる。そうした隠し味的な要素を入れることをチートコードと呼んでいるんだけど、まず曲に親しみを持ってもらいたいということだよね」
――深読みかもしれないですが、先行シングルの“Do You Mind”はマックスウェル“Ascension (Don’t Ever Wonder)”のベースラインを思わせますし、“Soul”もダニエル・シーザー & H.E.R.の“Best Part”に似たコード進行の曲で、あなたの音楽には新旧のR&Bへのリスペクトが感じられます。
「そうだね。そういったリスペクトをオマージュ的に入れ込むというのは、わりと意識している。素敵な曲に花を捧げるような気持ちでね。自分が聴いて育った音楽でもあるし、素晴らしいR&Bの曲はこうしてオマージュされて残るし、自分の曲も輝かせてくれるんだ」
――過去のアルバムでもゲストを迎えていましたが、今回は先ほど触れた“Do You Mind“にクリス・ブラウン、“Someday”にティンクを迎えています。クリス・ブラウンとは、あなたのアルバムで遂に共演が実現したといった感じですよね。
「クリスとは彼の“WE (Warm Embrace)”(2022年)で一緒に曲を書いたけど、自分の出世を後押ししてくれたから、恩返しみたいな気持ちもあった。もともと仲が良かったし、お互いリスペクトがあって、今回の共演に繋がった感じだね」