©Thomas Dorn

ウェイン・ショーターが2023年3月2日に逝去しました。サクソフォニストで作曲家、まさにジャズジャイアントの一人であるショーターの功績は、誰もが知るところです。1933年、米ニュージャージー州ニューアーク生まれのショーターは、1950年代後半にアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズに加入、60年代にはマイルス・デイヴィスのクインテットに参加し、ウェザー・リポートの設立メンバーでもありました。以降、半世紀以上にわたってジャズシーンを牽引してきたショーターの遺産を讃えて、今回は貴重なインタビューを再掲します。タワーレコードのフリーマガジン「intoxicate」の前身になった「musee(ミュゼ)」の2003年3月20日発行号に掲載された、アルバム『Alegria』についてのインタビューです。亡きショーターの言葉から、彼の偉大な音楽に思いを馳せてもらえたら幸いです。 *Mikiki編集部


 

ユビキタスなアーティスト

 ウェイン・ショーターの本質は、時間を超えたところにある。彼の音楽は、年齢と共に成熟の度を増していくものとは違うように思われる。新作『アレグリア』で、ショーターは“アンゴラ”や“オービッツ”、“カプリコン(II)”と、彼の多作期とも呼べる1960年代にレコーディングしたオリジナル曲をふたたび取り上げている。野暮なこととは思いつつ、それぞれについて新旧の演奏を聴き比べてみたが、レコーディングの音質から時代の判別はつくものの、成熟度といった形での時間差は感じられなかった。40年近くという実時間を隔てた違いのようでもあれば、昨夜のライヴと今夜のライヴの違いのようでもあるのだ。

『Alegria』収録曲“Angola”“Orbits”“Capricorn II”

WAYNE SHORTER 『Alegria』 Verve/ユニバーサル(2003)

 この記事を書くにあたって、ショーターに電話インタヴューを行う幸運に恵まれた。「好奇心をかき立ててくれるアルバムですね。」と挨拶代わりの感想(もちろん、正直な感想である)を述べると、「好奇心をかき立てるって? そう、人生の真の姿と同じだよ。人生っていうのは、みんなが考えているよりもずっと、好奇心をかき立ててくれる。だからぼくは、人生の真の姿が反映される音楽がやりたいんだ。」という言葉が返ってきた。文章で書くと、誰でも言いそうなことのように思えてしまうが、彼独特の、子供のように純真な響きと老人のように達観した穏やかさで語られると、聞いている方は何だか命を吹き込まれたような気分になってくる。子供と老人が共存しているところにも、時間を超越するものが感じられる。40年近く前のオリジナルを取り上げたのも、過去の自分を振り返ったのではなく、彼の中にある時間軸が異次元の空間で曲がり、たまたま40年前のある点と現在のある点で交差しただけのような印象を受けるのである。「そう、すべては連続しているからね。時間軸には始まりも終わりもない。始まりや終わりというのは人為的なもので、ある点からある点へと移動するための手段だと思う。梯子をかけるみたいにね。でも、同じところに留まるのは自殺行為だよ(笑)。」「たとえば1969年の『スーパー・ノヴァ』と新作とを聴き比べても、時間差を感じないのですが。」「時間差を感じないということはつまり、ぼくたちは〈永遠なる自己〉すなわち〈人間の永遠性〉を讃えているということだよ。ぼくたちは変化したり、オリジナルなものをやろうとしたりする度に、自分自身がその永遠性を探るための冒険をしているということを確認しているんだ。」――普段なら不毛な抽象論のように思える事柄が、彼の音楽という具体例を踏まえることによって、俄然現実味を帯びてくるところが面白い。