もう、今年最大の快挙といってもいいだろう。長らく入手困難だった沖縄音楽の名唱名演が、いつでも聴けるようになったのだから。今回再発されたのは、1974年から76年にかけて録音された音源。すべて、ルポライターの竹中労が渾身のプロデュースをした10枚のアルバムで、久保田麻琴がリマスタリングを施して約40年ぶりに蘇ることになった。
メインとなるのは、なんといっても嘉手苅林昌の熱演だ。大阪フェスティバルホールにおけるライヴ盤の傑作『語やびら島うた 彈 ~嘉手苅林昌の世界~』、コザ(沖縄市)の料亭にマイクを持ち込んで録音された『飄 ~嘉手苅林昌の世界 その2~』と『情 ~嘉手苅林昌の世界 その3~』、赤坂のスタジオでレコーディングされた『吟 ~嘉手苅林昌の世界 その4~』と、シチュエーションは様々だが、独特のグルーヴを感じさせる三線の演奏と、魂の叫びとでも言い換えたい唄の迫力は圧巻だ。また、林昌を筆頭に登川誠仁、照屋林助、里国隆、知名定男といったオールスター・メンバーで出演した伝説の日比谷野音での実況盤2枚からは、当時の沖縄民謡がいかにパワフルなエネルギーに満ちていたかがわかるだろう。このライヴは、戦後30周年を記念した内容だったということもあり、反戦歌も多い。なんだか不穏な空気になり始めた今だからこそ、聴く価値はあるだろう。
前述したメンバー以外にも、大工哲弘、国吉源次、山里勇吉、大城美佐子、知名定繁、糸数カメといった個性的な唄者たちが、『語やびら島うた 響 ~島々のうた~』、『恋 ~十九の春 島々のうた 第2集~』『汗 ~山原ユンタ 島々のうた 第3集~』、『撥 ~島々のうた 第4集~』といったアルバムにしっかりと記録されている。一枚一枚ていねいに聴き進めていくことで、表層的ではなく、沖縄民謡が本来持つソウルフルなマインドを理解できるはず。そして、40年前とは思えない新鮮な驚きとともに、心を揺さぶれることだろう。
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