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音楽愛ゆえの建設的論争と未来への希望

ライトニン・ホプキンスやB.B.キング、マディ・ウォーターズなどをめぐる論争も実にスリリングだ。「アドリブ」でのB.B.キングのアルバム評(中村とうよう)に対する反論(日暮泰文)が「ニューミュージック・マガジン」のレターズ欄に掲載され、それが「ザ・ブルース」の誌面を舞台に、〈ぼくはB.B.キングをなぜ評価しないか〉(中村)、〈B.B.キングはなぜ偉大なブルースマンか〉(日暮)という論争へと発展する過程も、本書では一気に見ることができる。しかし、反対意見であっても、互いの人格やキャリアを否定するような下衆な中傷合戦にはならず、自分の主張を押し通しながらも建設的な議論になっているのは清々しく、品性が感じられる。それもこれも音楽に対する愛があればこそだ。

この論争に限らず、現在ならSNSで炎上しそうな発言もあるし、当時はいまほど問題視されなかったNワードも普通に飛び出す。が、情報共有のスピード感も違った当時は、脊椎反射してモノを言う前に、読み手も書き手もひと呼吸おいて考える余裕があった(と感じられる)。それが冷静さを持った建設的な議論に繋がったのではないかと思う。

一方、単に過去の記事を再掲してよしとするのではなく、ブルースの未来に希望を託す文章が寄せられているのもよい。現「ブルース&ソウル・レコーズ」編集長の濱田廣也氏による〈半世紀の時を経て ブルース2023〉では、いまでは古色蒼然としたブルースという音楽が置かれた現状を、シーンの変化を感じつつも前向きに捉え、2023年にこうした書籍を出すことの意義を明確にしている。

 

歴史修正主義が蔓延る今こそ重要な〈記録〉

〈SNS全盛時代のいまとは違って、昔はよかった〉と言いたいわけではない。確かにいまは暴走や暴論も少なくないが、真正面から音楽に向き合い、熱く語る書き手や聴き手は、舞台が少し変わっただけで昔と同じようにいる。もちろんそれはブルースというジャンルにとどまらない。ただ、時を経るごとに過去の歴史が歪曲され、単純化していく中で、克明に記された昔の記録に接することは重要なのではないか。

本書をめくりながら、近年安易に使われる〈ブラックミュージック〉という言葉の重さも改めて感じた。そして、ブルースの流れを汲む音楽についてペンをとる末端のライターである自分の未熟さに恥じ入りつつ、大いに刺激をもらった。「ニッポン人のブルース受容史」は、そんな一冊である。

 


BOOK INFORMATION

日暮泰文, 高地明 『ニッポン人のブルース受容史』 ele-king books(2023)

発売日:2023年3月29日
ISBN:978-4-910511-33-7
判型:B5判ソフトカバー
ページ数:368頁
価格:4,620円(税込)

CONTENTS
Intro ブルースがはるばるやってきた

chapter I 1960’s
chapter II 1970-73
chapter III 1974-76
chapter IV 1977-80
chapter V ブルースああでもないこうでもない
chapter VI ブルース・ライヴの衝撃
chapter VII 日本人ブルースの夜明け
chapter VIII そっと部屋にしのびこむブルース
chapter IX ブルースたった今

Outro Final Moanin’─謝辞