本業はジャズピアニストにしてアツいメタル愛好家でもある西山瞳さん。〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉は、そんな西山さんがメタルにまつわるあれこれを綴っている連載です。今回は、コード・オレンジ『The Above』とバロネス『Stone』という直近にリリースされた注目の新譜かつメタル最前線のアルバムついて。 *Mikiki編集部
とても楽しみにしていたコード・オレンジの新譜『The Above』が9月29日に発売となり、何度も繰り返し聴いています。
前作『Underneath』は、大傑作でした。次のアルバムはどうなるのだろうと期待していたら、ハードコアな部分に加えて抑制された表現も際立ち、ジャンル外にアプローチする開かれた現代ロックになっており、ブリング・ミー・ザ・ホライズンが『amo』で化けたような、自信があるからこそ冒険できるポップさがあります。バンドのあり余るパワーが、ジャンルをはみ出て外部に分岐していく様子に、勢いと充実が伝わってきますね。
前作『Underneath』に比べると、直接的なハードさや暴力的な衝動を刺激する時間の割合は低くなっているのですが、対比となる抑制された不穏で不安な時間と、その音色のバリエーションが多いので、音楽がとても重層的に分厚くなったと思います。
聴き進めながらこの音楽について考えていくうちに、やっぱりコード・オレンジについては時間の感覚がとても好きだなと、改めて感じました。
職業的なもので、音楽が鳴っていたら常に考えながら聴く癖があるのですが、もちろん最初は、まず自分にとって興味をそそるか、好きか。そこから、自分はこの音楽の何を好きと感じているのだろう?と、好きの理由を、構造分析したり明文化したり、あれやこれや考えてみます。好きな理由がわかれば、自分の音楽で実践することができますしね。
そういう時に、音楽の構造だけでなく、メタルの場合は物理的な時間配分に注目するのですが、コード・オレンジはその時間の感覚が好きなんですよ。
我々音楽家は、音楽を提供していますが、それはすなわち、時間を提供しています。否応なく聴き手の時間を支配してしまう。その聴き手を拘束している時間に責任を持って、時間をコントロールし上手く支配できるのが、プロでありアーティストだと思っています。
私は、時間という面では、きっと他のメタラーよりは我慢強くないです。
なぜなら、常に変化を求めるジャズに従事しているから。常に変化し続け、いつ終わるかも決まっていない音楽に魅力を感じて人生を過ごしているので、根本的にはリフの繰り返しが続くこととは相性が悪い。
コード・オレンジは、後ろを振り返らない、一度使ったものに固執しない、非常に前進力のある、ある意味さっぱりとした時間の使い方で、私はとても好きなんですよ。
ハードコアやニューメタル、グランジ、インダストリアルロックは、濁った音、汚い音とともに音楽を進めていきます。その濁った音、汚い音は、それ自体にレイヴする魅力と快感があり、入ってしまえば気持ち良いものではあるのですが、私自身はその濁った音、汚い音から解放される瞬間、次のアクションに入る瞬間に、もっともっと大きなカタルシスを感じます。
だから、この濁った音、汚い音を扱う時間、解放されるまでの時間というのがキーになってくるのですが、コード・オレンジは絶対に飽きさせない。実に手際良く、さっぱり次のアイデアに移っていくので、聴いていて本当に気持ち良いのです。
アルバムの中では、例えば“A Drone Opting Out Of The Hive”では、サビの合いの手に電子音でEのコードの分散和音が違和感バリバリで入ってくるんですけど、大事なのはその回数のしつこくなさです。
短ければ良いというものではないし、長ければ良いというものでもなく、内容次第なんですが、全てにおいて、次に移るタイミングが、とても気持ち良く感じています。