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アトランタ・サウンドの源泉

 そうやってダンジョン育ちの才能が多く世に出ていくことでローカルのシーンが盛り上がり、以降のアトランタ・ベースやクランク、スナップ、トラップといった土着のサウンドが30年かけて発展していく土壌が作られたのは確かだ。ただ、ONのダーティー・サウスな音世界はそれらともまた異なるものだった。レコードのサンプリングを下地にするスタイルだけでなく、実際に生楽器を使用したループ/トラック作成こそがONの持ち味。それはオークランドのトゥー・ショートやヒューストンのラップ・ア・ロットでも施行されていたやり方だったが、伝統的なファンクやソウル、ゴスペル、ブルースなど身近な音楽を自在に取り込む術は先達よりもっと柔軟だったように思える。そうした手法はPファンク軍団への憧れもあっただろうし、同時期に生音が復権していたR&B内の新しい流れ(ニュー・クラシック・ソウル~ネオ・ソウル)とも並走するものだった。その意味でもONのヴィジョンはより出入り自由に何とでもコネクトすることができるものだったと言える。

 そして、そんな自由な気風は個々のアーティストの豊かな創造性の産物でもあった。やがてアウトキャストもグッディ・モブもクリエイティヴに成長するとONの元を巣立ち、自分たちの創作を突き詰めるようになる。逆に、各々の独立した動きはダンジョンの系統樹を大きく伸ばし広げていくことにもなった。アウトキャストの設立したアケミナイはスリム・カルフーンやキラー・マイクを送り出し、その後にビッグ・ボーイが主宰したパープル・リボンはジャネール・モネイを見い出した。リコが試みたダンジョン第2世代としての飛躍は実現しなかったものの、そこにいたリコの従弟フューチャーは当世きっての人気ラッパーである。もちろん、アンドレ3000やシーロー・グリーンといったスターたちの活躍は言うまでもない。そんな豪華な顔ぶれの源泉はダンジョンから湧き出ていたのだ。

 00年代半ばには失速していったリコとONだが、ぼやきまくりのドキュメンタリー「The Art Of Organized Noize」(2017年)が話題になって以降は、メンバーたち各々が原点に回帰する動きを見せていたところだった。ドキュメンタリーに合わせた『Organized Noize EP』にはファミリーの面々が駆けつけ、グッディ・モブは20年以上ぶりにON総合プロデュースでアルバム『Survival Kit』(2020年)を発表。ビッグ・ボーイ&スリーピー・ブラウンのタッグ作『The Big Sleepover』(2021年)もそれに続くONの仕事であった。なお、ビッグ・ボーイはかつてのリコの母親宅を〈ダンジョン〉ごと購入してレガシーを継承している。そしてキラー・マイクのグラミー受賞作『Michael』にはシーローやアンドレらと並んでリコも参加……そのように少しずつONとファミリーがマッシヴな一体感を取り戻してきたように思えるだけに、このタイミングでのリコの死はなおさら惜しまれる。キラー・マイクが“Exit 9”の新しいリミックスでリコに敬意を表していたように、稀有な鬼才の仕事を改めて堪能してみてほしい。 *出嶌孝次

オーガナイズド・ノイズやメンバーが手掛けた作品を一部紹介。
左から、トゥルース・ハーツの2002年作『Truthfully Speaking』(Aftermath/Interscope)、ブランディの2004年作『Afrodisiac』、トレイ・ソングズの2005年作『I Gotta Make It』(共にAtlantic)

オーガナイズド・ノイズのメンバーが参加した作品を一部紹介。
左から、ピンプCの2015年作『Long Live The Pimp』(Mass Appeal)、ブリーチャーズの2017年作『Gone Now』(RCA)、ニック・グラントの2017年作『Return Of The Cool』(Epic)

ダンジョン出身者によるクロスオーヴァーな作品。
左から、ナールズ・バークレーの2006年作『St. Elsewhere』(Downtown/Atlantic)、ラン・ザ・ジュエルズの2013年作『Run The Jewels』(Mass Appeal)、ビッグ・グラムスの2015年作『Big Grams』(Epic)