ルパン以外のレアアルバム
ケイ石田『波間』(88年)

60年代から活動を続けている日本のブラジル音楽の第一人者によるファーストアルバム。彼女の希望により、大野雄二が全編のプロデュース/アレンジ及びキーボードとシンセでがっつりと関わっています。また“Corcovado”や“I'm In The Mood For Love”などのボサノヴァ~ポップスタンダードに交じって、10曲中4曲を大野さんが書き下ろしていることも見逃せません。とくに“Louco Prazer”はいかにも彼らしいオールドタイミーなジャズ路線でにんまり。
現在もYuji Ohno & Lupintic Sixのメンバーであるミッチー長岡と市原康をはじめ、岡沢章、中川昌三ら大野ファーストコール組、さらに秋岡欧のカヴァキーニョやフランシス・シルバのブラジリアンパーカッションを適所に配したバックの演奏と、ケイ石田のネイティブ顔負けな歌唱も魅惑的な隠れた名盤です。
『ヨーロッパ戦線』(91年)

PC88用に発売されたシュミレーションゲームのサントラ盤。ルパン関連を除けばおそらくキャリア唯一のゲーム音楽で、プロデュースと全曲の作編曲を担当しています。
僕がこのゲームをプレイしていないというのも大きいのでしょうが、いくつか謎のある作品で、ゲーム本体の2ヶ月前にリリースされているのも不思議ですが、〈このCDはNEC-PC88MC、またはCD-ROMドライブで、ゲームと連動させてお楽しみいただけます〉という注釈の意味もよくわからず。演奏はシンセの打ち込みも生楽器もありますが、当時のPC環境でこの厚みのあるサウンドが再現出来たのかも素人の自分には不明のため、識者の意見を請いたいところです。
それはともかく、硬派な異色作として聴くとかなり面白味のあるアルバム。全体としては往年の戦争映画音楽へのオマージュが感じられますが、エリック・ミヤシロのトランペットと村岡健のサックスが駆け抜ける“エア・コマンダー”や、エレピとストリングスがメロウな“オーヴァー”など大野節満点のナンバーもしっかり収録。打ち込みの高速ビートにハードロッキンなギターが絡む“ハード・アタック”なんて絶対に他の作品では聴けないアレンジでしょう。
なお93年に発売された『光栄オリジナルBGM集Vol.9 ヨーロッパ戦線/スーパー蒼き狼と白き牝鹿・元朝秘史』にはスーパーファミコン版の音源が収録されているようですが、激レアすぎて未聴。
『あなたが振り返るとき オリジナル・サウンドトラック』(93年)

花井愛子の少女小説を原作にした30分のOVA(オリジナルビデオアニメ)のサントラという、なかなかニッチな作品。4曲のイメージソングを除く10曲のインストパート全ての作編曲とプロデュースを手掛けています。
テーマ曲的な“見つめているだけで version 1”は、どことなくアーリー60sのガールズポップにも通じるノスタルジックで胸弾むようなサニーチュ-ン。曲調は異なりますが、「ルパン三世 PART6」の主題歌“Milk Tea”と併せて聴きたい大野キューティーサウンドの真骨頂。ちょっとセンチな“ガールズ”や、軽やかなボサノヴァ“もっとステキにならなくちゃ”など、デジタルサウンドが主体ながら夢見心地でソフトな曲調が多いのは女子向けアニメならではでしょう。
ちなみに大野さんは、青池保子の漫画をイメージアルバム化した『エロイカより愛をこめて』(82年)にも数曲参加していますが、彼がロマンティックな〈少女的世界〉に足を踏み入れているのはこの2作くらいだと思います。それゆえ、どういう経緯で引き受けた仕事なのかがじつに気になるところ。