
ぼーっと過ごせる、でも注意深く聴きたくなる作品
――音楽的に、具体的に引っかかった部分はありますか?
「ジャンル分けはできないですよね。ジャズではないし、アンビエントでもない。でも、その両方の側面を持っている。テリー・ライリーの音楽に若干の共通点があるかなって感じますけれど、影響を受けているかはわかりません。アンビエントミュージックではないと思うけど、でもアンビエント的に聴くのがいいと思う。
ブライアン・イーノが最初にアンビエントを提唱したのは今からもう40年以上前のことですが、彼はアンビエントの定義について〈環境の音として注意を払わなくてもいい。でも、注意して聴いた時に、それだけの聴きごたえがある〉と言っていました。すごくいい定義ですよね。このレコードも、それがまさに当てはまる作品です。そういう両方の聴き方ができるレコードだと思いました」
――なるほど。
「でも、聴き流していたら、気になるところが絶対にあると思います。そうあっていいものなんです。かといって、すごく強い主張があるわけではない。ちょうどいい感じで、仕事をしながら聴くことができないわけではないけれど、ところどころ手を休めて聴きたくなる場面もある、そんな作品ですね。瞑想と言ったら大げさかもしれないけど、宗教的な意味ではなく、何も考えないで静かにぼーっと過ごせるというか、そういうのにすごく適した音楽ですね。
今日はアナログ盤で聴きましたが、むしろCDで聴いたほうが連続して聴けるからいいかもしれません。音のことを考えて、アナログもわざわざ2枚組で出しているのでしょうけれど」
――1枚に収まる長さをあえて2枚組にしているので、溝の幅に余裕があって、内周の音もいいと感じました。
「もちろん、音はいいですよ。比較すると、大抵アナログの音が一番いいんです。おそらく、曲の長さを考慮してA、B、C面に収めたのでしょうね。45回転にして、D面まで入れる手もあったのでしょうけど、そうはしていない」

――ご本人はすごくこだわりが強い方らしく、D面がエッチング仕様というのも彼女の美的なセンスによるものかもしれません。また今回、ストリングズを入れたことが前作とのちがいになっています。
「ストリングズについては、シンセサイザーでストリングズのような音を出しているところもあるし、シンセと実際のストリングズのちがいは、僕にはあまりわかりませんでした」
――生音と電子音が溶け合っている?
「ええ。シンセサイザーも古いものを使っているのでしょうね」
――モジュラーシンセサイザーも使っていますね。
「パッチで繋ぐやつですよね。あんなシンセをわざわざ使っているんですか。松武秀樹さんのことを思い出しますね」
――また、ナラはハープも演奏しています。
「ハープといえば、最近、僕がものすごく気に入ってのめり込んでいるマシュー・ハルソールというイギリスのトランペット奏者がいますが、彼のレコードのほとんどにハープが入っています。
彼の音楽は俗にスピリチュアルジャズと呼ばれていて、スピリチュアルジャズの元祖といえばアリス・コルトレイン。彼女はずっとハープを使っていたから、もしかしたらナラ・シネフロもアリスを意識しているかもしれません」
――ただ、ナラの音楽って、いわゆるスピリチュアルジャズとはちがいますよね。
「全然ちがいますね。比較しようとも思いません。ただ、彼女がハープを演奏するきっかけが、もしかしたらアリスだったのかもしれないなと。
ハープって、ポピュラー音楽であまり使われない楽器ですよね。アイルランドのトラディショナルとかは別ですが、ジャズでもハープを使う人は少数です。ドロシー・アシュビーとか、最近はブランディ・ヤンガーという人がいて、大体女性です。男性では、上原ひろみと一緒にライヴをやっていたコロンビアのエドマール・カスタネーダしか知りません」