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名盤CD再発の恩恵をもろに受けた世代

――1990年代後半だと、リイシューブームというか、過去の名盤のCD再発が盛り上がってたタイミングですよね。

「ああ、それもありますね。名盤探検隊っていうワーナーがやっていたリイシュー企画があって、エリック・ジャスティン・カズとかがそこで再発されてました。そういうリイシューブームは、日本の音楽シーンにも影響が大きいと思います。日本でルーツ志向のバンドが根強く活動しているのは、そういう良いリイシューがあったからじゃないか、と。自分は、そういう1990年代末~2000年代前半の名盤CDリイシューの恩恵をもろに受けた世代だと思います。名盤探検隊のシリーズは1枚1,785円なんですよ、今でも値段が言える(笑)。あとやっぱり、ライナーノーツが入っていたことは大きいですね。そういう名盤発掘企画は、メジャー各社は基本どこもやっていましたが」

――ネットのない時代、アーティストの詳細なプロフィールや背景がまとめられたライナーは重要な情報源でしたよね。今のプレイリスト文化とはまた違う、音楽の聴き方のひとつでした。

「いかにもおじさんっぽくなっちゃいますけど、昔はやっぱりお金を払ってるから、一枚一枚ライナーも読んでしっかり聴いてたっていうのはありますね。CDを棚に並べて、背表紙を眺めるのも楽しかったり。このラインナップが俺のアイデンティティだ!とか、若者らしい話ですけど。並べるのもABCD順とかじゃなくて、自分なりのマップというか配置があったりして。ウェストコーストロックに始まりインディーロックで終わる、で、こっちからソウル、みたいな。でもそういうのが、自分の音楽評論家としての原点な気もしますね」

 

フィジカルからデジタルへ移行する厳しい時期に働いた音楽業界

――CDを買い続けて今がある、と。柴崎さんのプロフィールには、2006年から音楽ビジネスの世界に入り、制作やプロモーションに携わる、とありますよね。2006年というと既にCD的には厳しい時代の印象ですが、その辺りはどうでしょうか。

「世の中的には、就職氷河期がちょうど終わった頃ですかね。老舗のレコード会社に割と何となくというか、滑り込みで入ったんですけど。CD不況とは言われてたけど、実感としてはまだそんなに深刻に感じていなかったかな。ただ業界とは無関係だった学生時代から、P2PソフトだったりCD-Rコピーの流行だったり、そういうことに対しては〈CDって今後大丈夫なのかな?〉と思ってました。

当時はYouTubeもまだそんなに発展していなかったですよね。レコード会社もまだまだアナログなやり方で、ルート営業で地方の店を回ったりしてました。だからフィジカルは斜陽ではあるけど、まだまだ元気なメディアだとも思ってましたね、当時は」

――CDの時代がいよいよ終わったな、と感じたのはいつ頃なんでしょうか?

「やっぱりサブスクの登場ですかね。Apple Musicが日本でスタートしたのが2015年ですよね。CD屋のチェーンがガンガン閉店していくのも、その辺りから本格化していった印象です。毎週のように閉店の連絡が来るんですよ。あるいは〈〇〇店はセントラル受注(※店舗ごとのバイヤーではなく、本部が直接、販売する商品を管理する)になりました〉という連絡も来るし。そうなると、それ以前は地方でもお店のバイヤーが自分の愛着のあるアーティストを店でプッシュして文化を育てるみたいなことがあった訳ですが、そういうことをする余裕が無くなったってことですよね。

遡るとリーマンショックもあったし、2010年代を通してどんどん音楽業界も厳しくなっていきました。2009年には最初の会社を辞め、インディーズレーベルで働き始めましたが、マニアックな音楽の市場も残念ながら本当に縮小していきましたね。ただ自分は半ば意地みたいな所もあって、相変わらずCDも買ってましたけどね」

――2000年代以降、特に2010年代になるとボックスセットのブームだったり、ソフトに付加価値をつけたコレクターズアイテム的な商品も増えてきた印象ですが。

「◯周年デラックスエディションみたいなのは、たしかに2010年以降は増えましたね。自分もデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』40周年エディションとか、そういうのをバンバン買ってました。

自分は直接は関わっていませんでしたが、昔の会社の先輩でAKB48の握手券システムを最初に考えた人がいたんですよ。あれはメジャーなフィールドにおいてはかなり衝撃的というか、革命的でしたね。もう、音楽作品じゃなくてグッズやチケットとして買ってくれっていう、逆転の発想ですよね。まあ、既に持ってる名盤をデラックスエディションやら30周年やらで何枚も買う、という意味では同じかも知れませんが(笑)。

自分が関わってるインディーミュージシャンのCDでも、通常盤と初回生産限定盤は別々なのが当たり前、という時代になりましたね。それでも、常々もっと売れてほしいと感じていましたが。2010年代前半だと日本ではストリーミングの環境もあまり整ってなかったし、バズってバイラルヒット、というような流れもなかったし」

――そういう意味ではインフラじゃないけど、デジタルな音楽産業の仕組みが今は整ってますよね。

「デジタルマーケティングだったりTikTokからの誘導の仕方だったりは、良かれ悪しかれスキームとして出来上がりましたよね。そう考えると自分がレコード会社で働いてた時期が、ちょうどフィジカルからデジタルの過渡期にそのまま当てはまっていたということに気づきますね」