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〈悪魔〉のイメージがもたらした音楽的自由

これは各構成員の多彩な音楽的素養の賜物なのだが、それと同じくらい重要だったのが、このバンドならではの世界観、〈悪魔〉としての存在感の強さなのだと思われる。やっている音楽がどれだけ多彩でも、あの白い顔や戦闘服などの出で立ちがあれば一貫したイメージが保たれる。

これは、いわゆるヴィジュアル系※4のバンドにも通ずることだろう。その上で聖飢魔IIの場合は、“蠟人形の館”をはじめとする初期の名曲群(様式美ヘヴィメタルの枠内でも最高級のものばかり)が〈悪魔〉イメージを補強し、〈悪魔だから何をやってもおかしくない〉方面での説得力をも高めている。

聖飢魔IIは、先述のような音楽的放蕩を繰り返す一方で、ミサ(ライブのようなもの)では最新の楽曲とともに初期の名曲群を演奏し続け、〈悪魔〉イメージの継承と更新を同時に成し遂げてきた。その結果、どれだけ遠くに行っても帰ってくる場所がある状況が維持される。このような保守と革新のトリックスター的両立こそが聖飢魔IIの本領であり、その原点となったのが、1985年9月発表の1st『悪魔が来たりてヘヴィメタる』、1986年4月発表の2nd『THE END OF THE CENTURY』、同年11月発表の3rd『地獄より愛をこめて』といった初期の名作群なのである。

 

元ネタを換骨奪胎し、別の個性を生み出す名手

というわけでここからが初期作の話なのだが、聖飢魔IIの場合、曲の骨格自体は様式美ヘヴィメタルであってもそれを演奏する構成員が他ジャンルの超一流なこともあってか、一般的なメタルでは考えられないようなメロディやコード進行が組み込まれていることが多い。また、聖飢魔IIは換骨奪胎の名手であり、他バンドの名フレーズ(ヒップホップやDJで言うところの大ネタ)を引用しつつ全く別の個性を生み出してしまっていることも少なくない。

例えば、2nd収録の代表曲“蠟人形の館”では、オジー・オズボーン“Crazy Train”によく似たリフを欧州暗黒メタル的な曲調(デーモン閣下の存在感もあって楽しげな印象も生まれているが、マーシフル・フェイトあたりにそのまま通ずるおどろおどろしさがある)に落とし込み、意識して聴き比べても別物にしか思えないくらいのオリジナリティを確立している。

そうした印象に大きく貢献しているのが素晴らしいギターソロだ。“Crazy Train”自体の構造や元音源でギターを弾いているランディ・ローズの個性を汲みつつ数段ひねったようなメロディの流れは、ジャズ的なスケールアウト感も滲ませながら曲の骨格に美しくハマっている。鼻歌したくなるくらいキャッチーな、それでいて実際に鼻歌しようとすると難しいフレージングはエース清水長官の独壇場で(ジェイル大橋代官やルーク篁参謀にはまた別の魅力的なメロディセンスがある)、“THE END OF THE CENTURY”や“JACK THE RIPPER”ではジューダス・プリーストやアイアン・メイデン系譜の曲調に全く異なる旨みを加えている。

この時期にこんなことをやってのけたバンドは〈正統派ヘヴィメタル〉の領域にはいなかったし、ジャズ的な演奏語彙とメタルの融合という点では、メガデスの1st『Killing Is My Business... And Business Is Good!』(1985年)あたりにも並ぶ達成ではないかと思われる。

 

HR/HM領域で最先端のことを成し遂げた世界屈指のバンド

こうした換骨奪胎のうまさ、文脈再構築の妙に満ちたアレンジ能力は、聖飢魔IIの全活動期間を通して強力な武器であり続けた※5。それは1st『悪魔が来たりてヘヴィメタる』についても言える。“悪魔組曲 作品666番 ニ短調 序曲:心の叫び”では、レッド・ツェッペリン“Achilles Last Stand”のスキャットがおどろおどろしく神秘的なチャントに組み替えられ、同曲の“第三楽章:KILL THE KING GHIDRAH”ではレインボー“Kill The King”のリフが参照されているのだが、それらを用いる文脈が原曲と大きく異なり、音源全体の雰囲気も別物であるためか、〈元ネタ〉と全く別の価値が生まれている。

これほどのことができるバンドは当時としても稀だったし、狭義のヘヴィメタルの枠内で革新的な作品が生まれ続ける近年の潮流に照らしてみれば、ヒップホップにも通ずる文脈再構築の感覚も含め、さらに高く評価されるべき状況が来ているのではないだろうか。

リアルタイムでは〈意外に本格的な音を出している色物バンド〉くらいにしか思われていなかった初期の聖飢魔IIは、実は当時のHR/HM領域で最先端のことをやっていたという点においても、そしてそれが時代を超えて新鮮で尖った価値を示しうる点においても、世界的に屈指のバンドだった。そしてその出発点となったのが、デビュー作『悪魔が来たりてヘヴィメタる』なのである。