ルシッド・デュオ

マリンバ奏者イレナ・マノロヴァ&トマシュ・ゴリンスキーによるルシッド・デュオの来日公演が、2025年11月30日(日)に東京・銀座ヤマハホールで開催される。クラシック、現代音楽、電子音楽を自由に行き来し、世界的に高い評価を受ける2人の貴重なコンサートだ。今回はこの公演に向けて、ベルギー留学中に彼らと友情を育んだ気鋭マリンバ奏者・高口かれんに特別寄稿してもらった。 *Mikiki編集部


 

音が輝く瞬間――ルシッド・デュオ来日公演によせて

音がぶつかり、絡み合い、そして煌めく。

ベルギー留学時代からともに歩んできた二人の天才が放つのは、火花のように情熱的でパワフルな音楽。確固たるテクニックと大胆な表現で、マリンバの新たな魅力を切り拓き、世界中から高い評価を得る〈ルシッド・デュオ〉。

その眩い閃光を、この秋、日本で体感してほしい。

 

出会いは2008年。

私は国立音楽大学打楽器専修を卒業後、マリンバ演奏における、より専門的で音楽的なアプローチを求めて、ベルギーのアントワープ王立音楽院へ留学した。

世界的マリンバ奏者であり、ベルギー国際マリンバコンクールの主催者でもあるルートヴィヒ・アルベルト教授のもとには、世界中からプロ奏者を目指す若者が集まっていた。

そんな中、出会ったのがブルガリア出身のイレナ・マノロヴァと、ポーランド出身のトマシュ・ゴリンスキーだった。

マノロヴァは18歳という若さだったが、卓越したテクニックと表現力、幼少期から培った優れた音楽性を持ち合わせていた。持ち前の明るくフレンドリーな性格に加え、人一倍努力家ですぐに人気と注目を集める学生となった。

ゴリンスキーは、幼少期よりピアノ、打楽器、作曲を学び、そのマルチな才能を発揮していた。入学後はマリンバ科の授業のみならず同時に作曲や電子音楽の授業も履修し、多忙な学生生活を送っていた。学生時からマリンバのための作品を作曲し、その一部を私たち同級生に披露し意見を求めていた。既存のマリンバの作品の概念を覆すような、斬新なアイディアに満ちあふれていたことを覚えている。

その中で誕生したのが、代表作“ルミノシティ”だ。

緩急をつけた2楽章からなるマリンバソロ作品で、彼が得意とする超絶技巧が惜しげもなく登場するだけでなく、エフゲニー・キーシンを彷彿とさせるような、独特な世界観やダイナミックなアプローチが盛り込まれた作品。この曲でゴリンスキーはベルギー国際マリンバコンクールの作曲部門を制し、瞬く間に世界の注目を集めた。現在ではマリンバコンクールにおける定番曲の一つとなっている。

 

同じ東ヨーロッパ出身ということもあり、2人はすぐに意気投合した。

〈友人〉、〈親友〉という言葉を超え、〈ソウルメイト〉という言葉が最もふさわしい。演奏における方向性、情熱、パワー、卓越されたテクニック、表現力――まるでパズルのピースがぴったりと重なり合うような化学反応がそこには生まれていた。

朝から夜まで、練習室から二人の音楽に対する激しいディスカッションが聞こえていた。二人の天才が互いに切磋琢磨し、音楽を創り上げていくその様は、まるで音と音、情熱と情熱がぶつかりあい、火花が散っているようで、〈とんでもないデュオができてしまった〉と身震いしたのを思い出す。

 

ところで、二人はかつ丼や寿司が大好きで、学生当時は和食レストランでアルバイトをしていたほどの〈日本好き〉だ。

音楽だけでなく、日本の文化や人々への深い愛情を持ち続けている。

やがて二人は、マリンバ界のレジェンドである安倍圭子氏の元で研鑽を積むため、桐朋学園大学への留学を決意した。

この経験についてゴリンスキーはこう語っている。

「マリンバをただの楽器としてではなく、哲学として考え、純粋に一人の音楽家として演奏することを学んだ。彼女の哲学は力強く、全身全霊の情熱を注いでいる。私の人生において、かけがえのない素晴らしい経験となった。」(高口かれんYouTube〈マリンバ演奏解説 Part 4: Interview with Tomasz Golinski about SHADES for alto saxophone and marimba〉より)