アウトサイダーの代弁者
では『Different Class』とはどんな作品だったのか?
端的に言えば、個性とマス・アピールが併存し、特定の時代と場所に根差していながらタイムレスで古びることがない稀有なアルバムだ。そもそもパルプは、ブリット・ポップの只中に身を置きながらも明らかに異彩を放っていた。世代も然り、ロンドンでもマンチェスターでもない地方都市出身だという出自も然り、70年代テイストのファッション志向も然り。実際、本作に封入されたブックレットの最終頁には、〈僕らはもめごとを起こしたいわけじゃない。自分らしく振る舞う権利が欲しい。ただそれだけ〉とのマニフェストが記され、“Common People”のヒットを受けて書き上げたというオープニング曲“Mis-Shapes”ではまさしく、多数派や権力者に虐げられてきたはみ出し者たちに蜂起を促し、アウトサイダーの代弁者を買って出る。「あれは、聴いてくれる人たちがいることを自覚していないと書けないタイプの曲だからね。リスナーに直接訴えかけたり、世の中に革命を起こしたりするのを狙った曲なんだ」とはジャーヴィスの弁だ。
音楽的にも単なるギター・ロックには当たらず、彼らは『His ’N’ Hers』で確立したパルプ節=グラム・ロックとニューウェイヴのミクスチュアを、多方面に発展させている。華のあるギター、アナログ・シンセをはじめとする多種多様な鍵盤、ラッセルのバイオリンに加えて、トレヴァー・ホーンとの仕事で有名なアン・ダドリーがアレンジしたオーケストラの演奏……と音のパレットを総動員し、フレンチ・ポップ(“Live Bed Show”)にディスコ(“Disco 2000”)にスカ(“Monday Morning”)といった具合に、雑多なスタイルをメロディック極まりないポップソングに消化。細やかに作り込んだサウンドスケープからは豊かな音楽的蓄積が垣間見える。
そしてもちろん、彼らの曲に決定的なアイデンティティを与えているのが、スコット・ウォーカーやセルジュ・ゲンスブール譲りの芝居がかった調子でスポークンワードを交えて歌う、ジャーヴィスのバリトン・ヴォイスと歌詞だ。その歌詞の多くを、彼は妹の家で一晩で綴ったという。
「次の日にデモを作ることになっていて、手元にはまだ曲になっていないアイデアを書き留めた紙切れがたくさんあった。それを基に試行錯誤したんだ。飲み物は質の悪いスペイン産のブランデーしかなくて、それを大量に飲んだ。ああいうことは何度もできるものじゃないね。後々同じことをやろうとしても、うまくいかなかったんだ。第一、健康に悪いしね」。
悪酔いがプラスに働いたのか、彼は溢れんばかりのウィットとペーソスで聴き手をエンターテインする。かねてから得意としていた、ラヴ&セックスを巡るトキメキと哀しみと恥のドラマの数々で失笑を誘い、あるいはホロリとさせ、なかでも、密かに心を寄せていた幼馴染みに捧げている“Disco 2000”の甘酸っぱさはたまらない。そしてアシッド・ハウスの洗礼を受けたジャーヴィスは、“Sorted For E’s And Wizz”と“Bar Italia”でレイヴ・カルチャーに言及する。後者の舞台は早朝のロンドン。クラブからの帰り道、出勤する人々を横目に昂揚感が醒めるのを待つ姿にもノーマルな生活への抵抗が感じられる。
抵抗と言えば、ブリット・ポップを代表する名曲のひとつ“Common People”は、〈持たざる者〉が〈持つ者〉に抗う、おかしくも挑発的なアンセムだ。インスピレーション源は、ジャーヴィスが美術大学に在籍していた時に出会った、裕福な家庭出身の留学生。庶民(common people)の生活に憧れていた彼女との会話をベースに格差問題を論じ、労働者階級出身者としての誇りを歌う。こうした社会批評を行なうという点もブリットポップ勢では例外的で、〈格が違う〉を意味するアルバム・タイトルにしても、階級間の断絶を暗に示す彼ららしい粋なフレーズだと言えよう。
そんな『Different Class』は期待感がますます高まるなかで送り出されて全英1位を記録したのち、オアシスの『(What’s The Story) Morning Glory?』を含む他の有力候補を抑えて、マーキュリー・プライズを受賞。最終的に4曲のTOP 10ヒットを輩出し、英国内だけで140万枚を売り上げて、ブリット・アワードでは4部門でのノミネーションをパルプにもたらした。ツアーの規模も拡大し、96年には初来日が実現。次いで2年後にも日本を訪れた彼らは、今年1月に東京では〈rockin’on sonic〉の初日ヘッドライナーとして、大阪では単独公演で、27年ぶりの来日公演を敢行したことが記憶に新しい。東京公演で多くの若者も混ざった聴衆が“Common People”や“Disco 2000”を大声で合唱する光景を思い起こせば、パルプが『Different Class』を介してまだまだファンを増やしていることに疑いはなく、今後もその強力な磁力を失うことはなさそうだ。
パルプの作品を一部紹介。
左から、2025年作『More』(Rough Trade)、94年作『His 'n' Hers』、98年作『This Is Hardcore』(共にIsland)