〈らしくない〉ロック的エッセンスが色濃く表出
一方で、『Young Love』はサザンがそれまでチャレンジしてこなかった音楽性にも果敢に挑む1枚にもなっている。それは『孤独の太陽』の制作におけるセルフプロデュースによる発展型であり、サザンらしくない楽曲も数多く収録されているのが本作であり、サザンの表裏を同時に封じ込めたのが『Young Love』というアルバムなのだ。
それを象徴しているのが本作のアートワークだ。メンバーが描かれたアートワークはキャッチーでわかりやすい反面、レッド・ツェッペリンやザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズといった1960年代から1970年代にかけての洋楽ロックのオマージュが散りばめられている。そのオマージュ元が示す通り、それまでのサザンと比べてもロック的なエッセンスが色濃く表出したのが『Young Love』なのだ。
1曲目の“胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ”はまさに本作のロック的エッセンスをわかりやすく形にした1曲だ。タイトルはレッド・ツェッペリンの“胸いっぱいの愛を”からの引用であり、軽快なギターリフと跳ねるようなドラム、洋楽のバンドの曲を聴いているような日本語と英語のちゃんぽんが印象的な桑田のボーカルにも洋楽のエッセンスを感じさせる。
タイトルトラックの“Young Love(青春の終わりに)”は、いかにもザ・ビートルズ・ライクなサウンドが印象的。当時40歳を迎えた桑田佳祐が青春を懐古しつつ〈来た道を憂いちゃないが…〉と敢えて明瞭に言い切らないところにミッドライフクライシスの現実を見るような気持ちにもなる。こうしたロック的なサウンド、そして夏らしい爽やかさとは一線を画す現実のアティチュードが散りばめられた楽曲群はパブリックイメージのサザンオールスターズとは全く違う〈らしくない〉存在である。
なによりも本作は、2年後にリリースされた『さくら』、そしてその先のサザンの活動の原型とも言えるような楽曲が多く収録されている。その後のサザンを考える上でも重要な位置づけの作品がこの『Young Love』なのだ。
シングルとしてミリオンセラーを樹立した“愛の言霊 ~Spiritual Message~”はジャンルを超越するサザンの怪作。語感を重視した言葉遊びを盛り込みつつも和のエッセンスがベースである一方で、英語やインドネシア語まで盛り込んだ歌詞がこの曲の多国籍性を確立している。どのジャンルとも言えないサウンドの本楽曲が、ドラマ主題歌とはいえミリオンセラーを確立したことに今改めて驚くばかりだが、このダークなサウンドスケープはその後リリースされるアルバム『さくら』の萌芽だ。
切れ味鋭い歪んだギターリフから始まる“汚れた台所(キッチン)”は、リリースから30年を経た現在においても通用してしまう社会風刺にこの国の成長出来なさを痛感してしまうロックチューン。当時の世相を切り抜く社会風刺的なフレーズの数々は、後年の“私の世紀末カルテ”などに連なる歌詞と言えるだろう。
デジタルロックと歌謡曲を融合した“恋のジャック・ナイフ”の延長線上には、よりデジタルロックを極めた“01MESSENGER〜電子狂の詩〜”がある。“ドラマで始まる恋なのに”は小林武史との制作の潮流にあるドラマチックなバラードだ。“真夏の果実”や“君だけに夢をもう一度”を経たサザンだからこそ作り出せた、キャリアの中でも傑作バラードのひとつと言える。映画のキャッチコピーさながらの〈あの夏の恋が思い出にかわる〉というサビのフレーズは“真夏の果実”における〈四六時中も好きと言って〉の派生であると共に、後年の“TSUNAMI”における〈見つめ合うと素直にお喋り出来ない〉のアーキタイプかのようなフレーズだ。こうした楽曲とその後の作品を比べてみると、その後のサザンの活動の指針となったのが『Young Love』だと言えるのではないだろうか。
『Young Love』は249万枚の売上を記録。サザンオールスターズのオリジナルアルバムとしては現在も最多の売上を記録している。小林武史と作り出したポップスから後年の『さくら』におけるハードロック然としたサウンドへの転換点、そして“TSUNAMI”で再びポップスに回帰していくサザンの根幹となったのがこの『Young Love』であり、過渡期としてバランスが取れたアルバムとして評価されたからこそ、現在までサザンとして最大の売上を誇っているのだ。