(左から)デニス・ハーヴェイ、ラース・ローヴェン
Photo by George Hooker & Elisabeth Marjanović Cronvall

これまで数多くのミュージシャンを生み出し、豊かな音楽の歴史を持つアイルランド。植民地支配をしていたイギリスから部分的な独立を果たして100年を超えた今、若い世代の間でフォークリバイバルと呼ばれるムーブメントが生まれている。それは伝統的なフォークミュージックを受け継ぎながら、ロック、ヒップホップ、R&Bなど、様々なジャンルから影響を受けたもの。そんな新しい動きを追いながら、アイルランドの今を浮かび上がらせたのが、2026年8月22日(土)に公開されるドキュメンタリー映画「ケルト・ユートピア」だ。アイルランドの歴史と音楽の関係を紐解いた本作は、アイルランドの音楽シーンの最新リポートとしても興味深い。共同で監督を務めたデニス・ハーヴェイ(ダブリン出身)とラース・ローヴェン(スウェーデン出身)に映画について話を聞いた。


 

ラップも現代においてフォーク的機能を果たしている

――映画を通じて現在のアイルランドの音楽シーンに触れることができました。日本では知られていないミュージシャンも多くて興味深かったのですが、映画の構成や語り口に関して考えていたことはありますか?

デニス・ハーヴェイ「18バンド、25名のアーティストを撮影していて、それを一本の意味のある映画としてまとめるというのは大きなチャレンジでした。編集に気を配りながらも、同時に自由な感じも欲しかったし、アイルランドに存在しているカオスも表現したかった。だからミュージシャンだけではなく、彼らと地元の人たちとのやりとりもカメラに収めたいと思っていました」

――フォークのミュージシャンを中心に、ラッパー、R&B、ロックバンドなど様々なジャンルのアーティストが登場します。どんなアーティストを映画に登場させるのか、何か基準のようなものはあったのでしょうか。

ラース・ローヴェン「具体的な基準はありません。若いミュージシャンでフォークミュージックをやっている人、という漠然としたイメージはありましたが、必ずしもそのルールに従ったわけではなくて、ジンクス・レノンのように若いミュージシャンにインスピレーションを与えている父親的存在のミュージシャンも登場します。

そして、トラディショナルなフォークミュージックだけではなく、現代社会においてフォークミュージック的な機能を果たしている音楽も紹介しています。例えばラッパーのヤング・スペンサーです。彼の音楽はローカルなもので、その土地に住む人のアイデンティティに関わっているという点ではフォークミュージック的だと思いました」

――ミュージシャンの演奏シーンを地元の教会や家の中で収録しているのが印象的で、彼らがアイルランドという土地と密接に結びついていることが伝わってきました。演奏シーンについては、どんなところに注意を払いましたか?

ラース「ライブ会場やスタジオではなく、特徴がある場所で撮影したいと思っていました。そうすることで、観客が自分のために演奏していると感じる。アーティストとの間に遮るものがないように感じるんです。路上で演奏しているシーンでは周りの人とのやりとりも入れようと思っていました。そしたら撮影の初日に橋の上で演奏をしているそばで川に飛び込んだ人がいて(笑)、それで映画のトーンが決まりました」