ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。2014年も残すところ1週間をきった時期だというのに、室内には灯りが点っていますね。

【今月のレポート盤】

YO LA TENGO Extra Painful Matador/HOSTESS(2014)

梅屋敷由乃「私、忘年会の幹事なんて初めてですので、ちょっと緊張しております」

汐入まりあ「そんなに固くならなくても大丈夫! ところで今日は誰が来るの?」

梅屋敷「コヤス先輩とジョン先輩、鮫洲先輩、雑色さん、それとエージ先輩も顔を出してくださるそうです。残念ながら他の方々は帰省中なようで……」

雑色理佳「おは~っす! いや~、こんな年の瀬に登校するなんて皆さん酔狂ですよね~!」

梅屋敷「あらあら、そういう雑色さんは?」

雑色「私はロッ研に操を立てていますから! っていうか、未成年だし、にゃはは! そんなことよりコレですよ、コレ!」

汐入「あ、ヨ・ラ・テンゴの『Extra Painful』! 私も買ったよ!」

雑色「流石は会長、美人なうえにヨ・ラ好きとはウチに嫁いでほしいくらいです!」

梅屋敷「廃盤の93年作『Painful』とは違うものなのですか?」

汐入「バンド結成30周年を記念してリリースされた『Painful』のデラックス版で、オリジナル盤に加えてDisc-2には未発表のデモ・トラックやアコースティック・ヴァージョン、ライヴ音源などを10曲も収録したものだよ」

雑色「いまもステージのトリを飾ることの多い超名曲“I Heard You Looking”のライヴ・テイクが、ちゃんとDisc-2のラストに収録されているのもニクイ!」

汐入「有名なヴァージョンはノイジーな“Big Day Coming”が、簡素なアコースティック・アレンジで聴けるのも嬉しいよね」

雑色「そのDisc-2だけでもお腹いっぱいですけど、さらに90年代初頭のレア音源が大量に聴けるダウンロード・クーポンまで付いているんだから、ファンなら垂涎でしょ~、じゅるじゅる」

梅屋敷「ヨ・ラ・テンゴって現役感の強いバンドなので、結成30年というのは驚きですこと!」

雑色「そりゃもう現役バリバリっすよね! 2014年の5月に行われた5年ぶりの来日公演も最高でした!」

梅屋敷「私は最近の作品しか存じませんが、『Painful』とはどのようなアルバムなのでしょうか?」

汐入「轟音ギターとアンビエントな浮遊感、そしてポップなのに哀愁漂うメロディー、つまり一般的にイメージされるヨ・ラのサウンドが確立された重要作かな。近頃ではシューゲイザー的な視点からも評価されているよね」

【参考動画】ヨ・ラ・テンゴの93年作『Painful』収録曲“Big Day Coming”

 

雑色「それまでは良くも悪くもヴェルヴェット・アンダーグランドのフォロワーっていうか、アマチュアっぽいアングラ・バンドって印象だけど、ここでペロッと一皮剥けた感じで!」

汐入「97年の名盤『I Can Hear The Heart Beating As One』と並んでファン人気も高いし、マタドール移籍後初の作品というのもポイントだよね」

梅屋敷「いまではレーベルの看板を背負っているバンドですものね」

汐入「本作以降のヨ・ラが現行のインディー・シーンに与えた影響は大きいと思う。例えば、気怠い浮遊感と儚いメロディーはビーチ・ハウスに代表されるドリーム・ポップ勢に、ノイジーかつまどろむようなサイケデリック感覚はディアハンターなどにも受け継がれているし……」

【参考動画】ビーチ・ハウスの2012年作『Bloom』収録曲“Lazuli”

 

雑色ローファイで、ポップで、サイケなんて、キーワードで結ぶとアリエル・ピンクにも繋がりますかね。新作『Pom Pom』を聴いて思いましたが、サウンドはやや異なるものの、アリピンは案外ヨ・ラ・ファンですよ!」

【参考動画】アリエル・ピンクの2014年作『Pom Pom』収録曲“Picture Me Gone”

 

梅屋敷「そういえば、私の好きなクラウド・コントロールも影響を受けていますわ! 何だかとても『Extra Painful』が聴きたくなってきましたので、温かいお紅茶を飲みながらいかがでしょうか!?」

※ヨ・ラ・テンゴ『Extra Painful』の試聴はこちら

雑色「ウメちゃん先輩、それ賛成!」

杉田俊助「Hello! あれ、飲み会の前に女子会!? どんなガールズ・トークをしてたのさ、Ha! Ha! Ha!」

雑色「いや女子会っていうかヨ・ラ会ですよ、にゃはは」

杉田「ヨラカイ? What's!? ガールのトレンドってよくわからないよネ!」

 言われてみれば、ここで女子だけのおしゃべりを聞くのは初めてでしたが、内容はジョンの期待するガールズ・トークとはほど遠い代物でしたね。たまには恋の話でも聞いてみたいものです。 【つづく】