インタビュー

SHERWOOD & PINCH 『Late Night Endless』 Pt.1

最新はもう最新じゃない――ダブの過去と未来、エレクトロニックのルーツと現在、伝統と革新をクラッシュする超世代タッグが深い夜の底でアルバムを完成させた。他を寄せ付けない空間芸術の凄みに、震えて目を覚ませ!!

SHERWOOD & PINCH 『Late Night Endless』 Pt.1

 「インターネットのおかげでベース・ミュージック・シーンの変化はハイパーに加速しているし……言い換えれば、いま流行っているものも、2年も経ったらダサいものになってしまう。で、今回のプロジェクトで俺たちが捉えたかったのは、それよりももう少しタイムレスな何かをクリエイトしたいということだと思う。だから、俺たちは現時点で〈最新〉と言われているスタイルや流行をそのまま自分たちの作品に組み込むという誘惑に抵抗しようとしたし、そうした諸々からこのアルバムを完全に遠ざけようとしたんだ。もちろん、同時代のさまざまな音楽からの影響を完全に無視するのは不可能だよ。ただ、いま世界の音楽シーンはどうなっているか、何がトレンディーで何がファッショナブルか、あるいは逆に何がイケてないのか――そこらへんを意識したうえで、その趨勢に接近しすぎたり、無闇に乗っかろうとしないっていうことだね。俺たちがこのプロジェクトの発端から熱心に考えていたのはその点だったし、そうやって、できればいまから15年、20年後に聴いても意義があって、聴く人の興味を掻き立てることのできる、そんなアルバムを作れればいいなと思っていたんだ」(ピンチ:以下同)。

SHERWOOD & PINCH Late Night Endless On-U/Tectonic/BEAT(2015)

 エイドリアン・シャーウッドとピンチ。片やダブ・レーベルのOn-Uを率いてUK独自のレゲエ/ダブ・カルチャーを創造してきた伝説的な存在。片やブリストル・ダブステップの盟主としてベース・ミュージックを更新し続けるテクトニックコールドの首領。2013年の〈SonarSound Tokyo〉で初ライヴを披露したコンビが、いよいよフル・アルバム『Late Night Endless』を完成させた。その来日が実現したのと同年にはOn-Uとテクトニックのダブルネームで12インチも2枚発表していたのだが、そこからリリースは途絶えていただけにこれは驚きの朗報と言っていいだろう。何せ、いまなお精力的に各方面で動きを見せるシャーウッドはもちろん、ピンチもかつてのシャックルトンロスカマムダンスといった面々との共作が頻繁なわけで、このタッグもお祭り的な世代差コラボと捉える向きも強かったのだ。ただ、ピンチは「仮にこれがそういう性質のプロジェクトだったとしたら、俺たちはこんなに時間をかけることもなく、もうちょい手っ取り早く何かサクッとリリースしていたはずだからね(笑)!」と笑う。

 そんな両者の縁は3年ほど前、ピンチがロンドンのファブリックで開催する〈Tectonic Night〉にシャーウッドを招いたことで始まったという。その後、お返しとしてパリで行われたOn-Uのショウにピンチが招かれ、両者は意気投合。シャーウッドの住まうランズエンドで共にスタジオ入りしたのだそうだ。

 「そもそものアイデアは、とにかく互いに手持ちのマテリアルを引っ張ってきて、それを元に何かしらエクスクルーシヴなダブ・プレートを何枚か作ってみようというものだった。まず何か軽く一緒にプレイしてみようじゃないか、って。だけど、俺たちはすぐに〈ダブ・プレート数枚〉のレヴェルから先に進んでしまったっていうのかな。いまでも覚えてるけど、スタジオで彼に〈エイドリアン、次は何をやろうか?〉と声をかけたんだよ。すると彼は俺をキッと見据えて、〈俺たちは一緒にアルバムをやるべきだ!〉と返してきてさ(笑)」。

 そこからおよそ2年半の時間をかけ、世に出された先述の成果も含め、両者はスタジオで長い時間を共有してきたということである。ピンチが生まれたのはOn-Uが本格的に動きはじめた80年、ということで世代間のギャップも想像できそうだが、「自分がガキだった頃から、その存在はしっかり意識してた、エイドリアンはそういう人だね。それこそ10歳くらいの頃から、〈Pay It All Back〉シリーズとかダブ・シンジケートのアルバム、アフリカン・ヘッドチャージタックヘッドなんかを聴いていた。文字通り〈エイドリアンの音楽を聴きながら大きくなった〉わけで、俺自身のプロダクションにおけるアプローチに影響しているのは間違いないね」との言葉通り、逆に彼のレジェンドの経歴に対する理解が、両者の意識や空間共有を容易にしたのだろう。特に、On-Uの過去音源からヴォーカル素材などがサンプルされているのはピンチの意向が強かったようだ。

 「それに関してはもう、俺はお菓子屋に連れてこられたガキみたいな感じだったよ! そんなアーカイヴにアクセスできるだけでもエキサイティング!みたいな。当初エイドリアンは今回のプロジェクトを新音源とフレッシュなアイデアだけで進めたかったみたいだけど。俺としては十代の頃の自分がずっと聴いていて、しかもいまでも共鳴できるものなわけだし」。

 霧の向こうでトライバルなパーカッションの打ち鳴らされる“Shadowrun”でスタートするアルバムは、リー・ペリープリンス・ファーライの声ネタを用いたブーティー・ベース“Music Killer Dub”へと雪崩れ込んで両名の個性を融和していく。ヘヴィーなうねりが空気を震わせるなか、ラゴスで録ったというティミ・オディーリの歌唱も素晴らしいエキゾな歌モノの“Stand Strong”、リズミックに尖った“Africa 138”などタッグの繰り出す楽曲は多様な表情で空間を支配する。ハイライトはビム・シャーマンの歌唱を用いた“Run Them Away”。

 「この2年半、一緒に作業してきて気付いたのは、自分たちはある地点に到達したって思いなんだ。俺たちはある種の〈ソニック(音波)〉を手に入れたというか、それは俺自身の作品のそれとも、あるいはエイドリアンの作品とも異なるもので、それ自体で成り立っている独自の音波を作り出せる、そういう地点に自分たちが達したのに気付いたんだよ。で、それは真の意味での達成だと俺は思っていてね。というのも、いまは自宅にホーム・レコーディング設備を構えた人はいくらでもいるし、アナログに付きものの七面倒臭いプロセス(笑)を簡単にしてくれるプラグインもいろいろ揃ってる。しかし問題なのが、そうやって作られたサウンドは得てして似たり寄ったりで、それぞれの音に大した差がない状態だって思うんだ。だから、その意味で俺たちが手にしたこの音波には凄く価値があると思っていてね、他とは違う独特なものだから。俺たちの作品を聴く人にも、〈エイドリアン・シャーウッド〉と〈ピンチ〉っていう個々の構成要素ではなく、〈そのふたつが合わさって生まれた何か〉だと感じてもらえたらいいな」。

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