今なお進化する伝説のピアニスト、待望のソロ・アルバム!

 現代屈指の「変わり者」が残した、あまりにも美しき宝石箱。フランクのピアノ作品と同時に、近現代のアルゼンチン、キューバ、そしてゲキチの故郷クロアチアの作品を集めてはいるが、その作風は難しさとは切り離されたモダンである。

KEMAL GEKIC イン・コントラスツ ALM Records(2015)

 奏者のケマル・ゲキチといえば、1985年の第11回ショパン国際ピアノコンクールにて自由奔放な演奏と個性的な解釈により聴衆を圧倒するも、その強烈な演奏に審査が分かれ最終選考に残ることはできなかった事から、これに抗議した審査員が次々に審査を辞退するという前代未聞の事件が勃発。

 翌年、聴衆の強い要望により「幻の最終予選」としてワルシャワ・フィルの定期シリーズに招かれ、コンクール本選と同会場、同オーケストラでゲキチは演奏を披露し、伝説的名演として語られる事となった。が、更に90年代に入ると演奏活動から突如引退、数年の練習期間を経るという、演奏と同じくその行動もあまりに異端である。

【参考動画】ケマル・ゲキチによるリスト作曲“ラ・カンパネラ”のパフォーマンス

 

 近年はナクソスやビクターからリスト(編曲モノ含む)でその奇抜かつ圧倒的な演奏を繰り広げ、リストのスペシャリストとしてその名を馳せている。これまで取り上げてきたレパートリーは前述のショパンやリストをはじめとしたロマン派が中心であったが、今回はゲキチが音楽の核心として敬愛するフランク、現在の拠点であり北米と南米の接点でもあるマイアミの地でゲキチが出会い、魅了されたアルゼンチンのヒナステラとキューバのアレン、そしてゲキチの祖国クロアチアが誇る作曲家パパンドプロと、ゲキチの音楽観や人生と深く共鳴する作品を取り上げている。

 ジックリと曲に向かい合ったのが分かる、大胆にして揺るぎの無い演奏が際立つ。ヒナステラやアレンでの燃え立つような勢いと踊りのようなノリの良さ、パパンドプロの癖のある音階も実に美しく響く。ゲキチは今なお高みを目指して上り続けているのだと、そう実感させてくれる素晴らしい1枚だ。