初来日のピアニスト、オルガ・シェプスはキュートな実力派だ。今回の演奏会ではショパン、プロコフィエフなどの大きな作品をダイナミックに聞かせてくれた。1986年モスクワ生まれながら、6歳でドイツに移住。パヴェル・ギリロフ、アリエ・ヴァルディなどの名教師に学んだ。すでにRCAレーベルから4枚の録音をリリースしている。最初にリリースしたのはショパンのアルバムだった。
「ショパンの作品が大好きだったから、最初の録音に選びました。ショパンの作品の中には人間的な感情、愛、苦しみ、別れの悲しみなどがあり、それらが作品を通して弾き手に伝わって来る。また聴き手にも伝わって行く。そんなところが好きです」
そのショパンのアルバムは「3つの新しい練習曲集」からスタートし、その後に有名な練習曲、ワルツ、バラード第1番などを並べている。
「有名な曲だけでなく、あまり知られていない作品にも光をあてたいと常に思っています」
そんな意図は、続く『ロシアン・アルバム』『シューベルト作品集』でも貫かれている。『ロシアン・アルバム』にはチャイコフスキー、バレキレフなどと共にグリンカ、アレンスキー、ティトフなどの作品も並ぶ。
「ロシアの作曲家の作品は、子供の頃から親しんでいたものもありますが、多くは大人になってから取り組んだものが多いですね。西欧から音楽を取り入れ、それを学んだロシア音楽の歴史が分かるような作品が多いと思います」
シューベルトも《ディアベリの主題によるワルツ》から始まり、レントラー、ワルツなど舞曲に焦点をあてたものだし、最新盤となるショパンの『ピアノ協奏曲集』もリヒャルト・ホフマン(1844~1918)、イラン・ロゴフによる弦楽合奏版を使用している。
「なぜ弦楽合奏版を選んだかというと、ショパンのピアノ協奏曲には室内楽的な部分があり、それを最も引き出せる編曲だと思ったからです。それにこの2つの版はあまり知られていないし」
またオルガはアルフレート・ブレンデルにもこの10年程プライヴェートでレッスンを受けている。
「15歳の時に、自分の録音と一緒に手紙を送りました。そうしたら、見てあげましょうという返事が来て、それ以降ロンドンやドイツ各地など、タイミングが合う時にレッスンを受けています」
以前から日本にも関心があって、小さい頃は『セーラームーン』を友人と観るのが大好きだった。オルガは黒髪なので〈セーラーマーズ〉役を担当していたと、ちょっと残念そう(?)な表情で教えてくれた。