ポップ・グループのブルース・スミスがドラムを叩いているものの、シュガーキューブス期のポスト・パンクな面影は見当たらず。このソロ・デビュー作ではソウルIIソウル脱退直後のネリー・フーパーにプロデュース/ハウイーBにエンジニアリングを任せ、ハウスへと軽やかに手を伸ばしています。また、エイジアン・マッシヴ・ブームを嗅ぎつけ、タルヴィン・シンを招いたことも特筆すべきトピック。
前作をサポートした主要メンツに加え、トリッキー(当時の恋人)と808ステイトのグラハムもプロデュース参加。トリップ・ホップ由来の人工的な音をより強調しつつ、そこに管楽器のジャジーな旋律や自由奔放なヴォーカルを被せることで、不思議な温かみを生んでいます。こうしてブリストル人脈と積極的に絡んだ初期ビョークの影響は、インディアーナやウォーターカラーズらモダン・トリップ・ホップ勢はもちろん、今様のベース音楽に迫るエッジーなサウンドをユキミの歌声でポップにまとめたリトル・ドラゴン『Nabuma Rubberband』からも感じ取ることができますよ。
シールやタルヴィン・シン仕事で当てたガイ・シグワースとLFOのマーク・ベルという、その後のビョーク作品にたびたび顔を出すこととなる2名がプロデュース。ダンサブルな前2作から一転、ギャヴィン・ライト(ペンギン・カフェ・オーケストラ)らによるドラマティックなストリングスを連れ添い、歌を立たせることにポイントを置いたチェンバー・ポップ的な3作目です。どこかプログレっぽさも感じる重層的なプロダクションと、生々しいほどエモーショナルなヴォーカル――エリー・ゴールディングやフローレンス・アンド・ザ・マシーンも間違いなく手本にしたはず!
IDMの延長線上で大きなウネリを起こしつつあったエレクトロニカに目を付け、マシュー・ハーバートやマトモス、オピエイトらをコラボレーターに起用した一枚。ビョークは素材になることに徹していて、無数のグリッチ・ノイズが神経質に耳を刺激する冷やかな質感のトラックに、違和感なく自身の歌(+児童合唱団のコーラス)を溶け込ませています。美しさと表裏一体とも言えるここでのグロテスクさは、いまだったらファルマコンやゾラ・ジーザス、リディア・エインスワースの描く音世界に通じるものがあり。こうして、本作あたりからビョークのエクスペリメンタルな動きはどんどん加速し……。
最新技術を駆使した緻密なプロダクションから一度距離を置き、この5作目では肉声にスポットを当てています。参加ゲストはDOKAKAやラーゼルといったヒューマン・ビートボクサーに、ロバート・ワイアットやマイク・パットンら個性派シンガーで、声以外の楽器の使用を極力控えたぶん、パフォーマーの息遣いまでもが聴こえてくる仕上がりに。命の鼓動を表現したというこの壮大なスケール感に魅了されたのなら、ジュリアナ・バーウィックやハチスノイトの最新作も併せてチェックしてみてください。
前作で実験的かつ芸術的な表現を極めた彼女が、デビュー当時のような人懐っこさを取り戻した6作目。最大の貢献者は何と言ってもティンバランドとデンジャの師弟コンビでしょう。ティンバらしい弾力のあるアッパーなビートを随所に配置し、コノノNo.1による電気親指ピアノや、トゥマニ・ジャバテのコラ、ミン・シャオフェンの中国琵琶をフィーチャーしながら、風通し良好なポスト・グローカル・ミュージック(?)を披露しています。主役のヴォーカルも溌剌としていて、ヘンな威圧感は皆無。このモダンなエキゾティック志向は、いま思うとイベイーやチューン・ヤーズの先駆けだったのかもしれません。
ダーティ・プロジェクターズのデイヴが書き下ろした曲に、ビョークがリード・ヴォーカルを乗せていくコラボ盤。フリート・フォクシーズ以降のサイケデリックなインディー・フォークが楽しめ、牧歌的なコーラスに癒されます。
この7作目では、ニュー・アルバム『Silver Kobalt』を発表したばかりのマヌ・デラーゴや、『Debut』~『Post』時のツアーに帯同していたレイラなどを召喚。〈テクノロジーと自然との関係性を探る〉というテーマからアカデミックな空気も嗅ぎ取れますし、確かに『Vespertine』路線の曲も目立ちますが、そのなかで注目すべきは16ビット(チェイス&ステイタス主宰のMTAに所属)の手掛けた“Crystalline”。ジャングルを導入した同曲でマシーンドラムらと共鳴し、アンテナ感度の高さを誇示してみせたのです。ちなみに、本作のリミックス盤『Bastards』では、16ビットに加えてデス・グリップスやオマール・スレイマンをご指名!