コラム

ダニエル・ホープ、スティングら迎えユダヤ系亡命作曲家をテーマにハリウッドの〈裏音楽史〉炙り出すコンセプト作

ダニエル・ホープ、スティングら迎えユダヤ系亡命作曲家をテーマにハリウッドの〈裏音楽史〉炙り出すコンセプト作

激動の20世紀裏音楽史の記録

 2年前にダニエル・ホープにインタヴューした際、「どうしてコルンゴルトの協奏曲を最近頻繁に演奏しているの?」と訊ねたら、こんな答えが返ってきた。「その曲を含め、コルンゴルト、アイスラーミクロス・ローザマックス・スタイナーらハリウッドのユダヤ系亡命作曲家をテーマにしたアルバムを録音する。もう、何年も前から、プロジェクト実現のためにハリウッドでリサーチを重ねてきたんだよ。タイトルは『ハリウッド・サウンド』。スティングマックス・ラーベをゲスト・ヴォーカルに迎えるからお楽しみに」。そのアルバムがようやく完成したが、はっきり言って、リスナーに相当のリテラシーを要求する作品だ。 

DANIEL HOPE 楽園への脱出 -ハリウッド・アルバム DG/ユニバーサル(2014)

 20年ほど前にパールマンジョン・ウィリアムズが録音した『シネマ・セレナーデ』が大ヒットを記録したが、これはホープ版『シネマ・セレナーデ』ではないか。曲目だけ見れば、そういう印象を受けても仕方ない。だが、ハリウッド映画音楽史にある程度通じていれば――オットー・フリードリックの名著『ハリウッド帝国の興亡』を最低限読んでいる必要がある――ナチスに追われたユダヤ系亡命作曲家がいわゆるハリウッド・サウンドの礎を築き上げ、そこにブレヒトやアイスラーが割り込んで“赤狩り”のきっかけのひとつを作り、ヨーロッパの作曲界から“亡命”した作曲家たちがハリウッドやブロードウェイといった“パラダイス”で調性音楽(=映画音楽やミュージカル)を書き続けた“激動の20世紀裏音楽史”が本盤から見えてくる。

 コルンゴルトの協奏曲では、ホープはいかにもゴージャスな演奏を披露してリスナーを喜ばせるが、その曲の前にミクロス・ローザの『ベン・ハー』~《愛のテーマ》が置かれているのは何故か? ハイフェッツの委嘱でローザが1953年に作曲した《ヴァイオリン協奏曲》(本盤未収録)の第2楽章が、6年後の『ベン・ハー』~《愛のテーマ》そっくり(正確に言えばプロトタイプ)なのは、ハイフェッツ愛好家なら周知の事実だろう。今回、ホープは『ベン・ハー』をローザの《ヴァイオリン協奏曲》の文脈に先祖返りさせ、かつ、それをコルンゴルトの協奏曲――こちらもハイフェッツが初演した――とカップリングすることによって、ホープ同様ユダヤ人ヴァイオリン奏者であるハイフェッツがハリウッドに与えた音楽的インパクトを炙りだしているのである。要するにユダヤ・コネクション。かつてハリウッド映画音楽の元締め的存在だったアルフレッド・ニューマンシェーンベルクの弟子!)の息子、トーマス・ニューマンの『アメリカン・ビューティー』が収録されている理由もそこにある。

 

LIVE INFORMATION
第672回東京定期演奏会<春季>
○7/10(金)18:20開場/19:00開演
○7/11(土)13:00開場/14:00開演
会場:サントリーホール
出演:ダニエル・ホープ(vn)広上淳一(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団
【曲目】エルガー:ヴァイオリン協奏曲/メンデルスゾーン:交響曲第3番《スコットランド》
www.japanphil.or.jp/

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