多彩で緻密、自由度の高いクラシック・ギター・デュオの労作

 2013年のデビュー作『オメナヘス』から一転、最新セカンド『セグンド』は全編ギター・デュオ。多彩なレパートリーと巧みな構成、ときに自由度の高い編曲、計算し尽くされた緻密な演奏は魅力だ。端正で涼やかな風貌なのに、実はがっぷり四つが得意技!? 気鋭のギタリストへ、まずは録音コンセプトを尋ねてみた。

 「暗い曲ばかりのソロ・コンサートで、明るい曲をデュオで弾くと結構受けが良くて。よく相方で出てもらう山﨑拓郎さんと、乗りのいいデュオで録音できたら面白いんじゃないか、というのが始まりです。ええ、同世代で飲み友達なんですけどね。結果、山﨑さんとは3曲ですが、録音全部に付き合ってくれました。橋爪晋平さん(3曲)は学校の先輩。原善伸先生は師匠。鈴木大介さんは僕の憧れで目標のギタリストです」

井上仁一郎 Segundo T-TOC RECORDS(2015)

 鈴木大介との共演曲は、鈴木のアルバム未収録という《アランフエス》。恩師・原善伸と驚くほどゆったりと紡ぐ《アルハンブラ宮殿の想い出》は殊に新鮮だ。

 「こんなにゆっくり《アルハンブラ》を弾けて、ちゃんと聴かせられるのが、原先生のすごいところ。絶対速くしないし、絶対繰り返しを省いたりもしない。でも、ゆっくり弾くのは、やっぱり怖いですよね」

 丁寧な奏法を重んずる師だが、生徒にはいたって寛容。門下は、多種多様なギタリスト揃いだそうだ。

 《地中海の舞踏》はフラメンコ好きの山﨑が提案。

 「スペインの曲でも、クラシックよりスペイン民族楽派みたいなほうが好き。二人でDVD鑑賞会したり、トマティートのライヴに行ったり。楽譜が無く、耳コピーしながら、弾けないところを変えてあります」

 最大の難関が、ピアソラ《タンゴ組曲》だったとか。

 「かなりクセのあるフレーズがいっぱいで一番難しい。どうも指板を鍵盤と同じように捉えているのか、前作に入れたタレガ前後の人と違って、ギターの構造はおかまいなしに、やりたいことをやっているんで大変。オリジナルのギター・デュオ楽譜や録音もいっぱいあるので、小細工もできず、だいぶ苦労しました」

 クラシック音楽で育ったが、ギターは意外な出発点。

 「指弾きの鉄弦から入って、コピーを始めたのが中川イサトさんのギターでした。音大で学んだのはクラシックですが、その頃ギターで流行っていたのは、ピアソラとか、派手なアンドリュー・ヨークとか」

 タイトルには2枚目、主にセカンド・パートを担当する側の意も込めたと語るが、「ゲスト4人は、ユニットm-floのヴォーカルが抜けた時期、ゲストでヴォーカルをとっ替えひっ替え迎えていたアルバムのイメージなんです(笑)」と、新世代ギタリストは喩えも柔軟だ。豊穣デュオの労作、広大な地平をご堪能あれ。

【参考動画】井上仁一郎の2013年作『オメナヘス』収録曲〈4つのカタルーニャ民謡〉

 

LIVE INFORMATION
Finger Picking Guitar Night
○9/5(土)19:00開演 FJスタジオ(福島市) 共演:野島史行(g)
クラシックコンサート
○9/12(土)13:00開演 すみだトリフォニー小ホール(墨田区) 共演:山﨑拓郎(g)
ふたりの饗宴 vol.2
○10/18(日)昼14:30/夜18:00開演 あべき倶楽部(福島市) 共演:秋山智樹(g)
Joint Concert @ Marseille Room
○10/25(日)14:15開演 オリエンタルホテル(浦安市) 共演:栗田和樹(g)
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