響板をにぎわすギターのブラッド・ライン

VARIOUS ARTISTS 『Anthology Of Classical Guitar Music』 Brilliant Classics(2017)

 どんな楽器でもいいのだが、ひとつの楽器のための作品を集めてみるといろいろな偏りがでてくる。名演奏家ならなおのこと。比較的得意とされる地域や作曲家、楽曲のタイプで編成されたり、いわゆる〈名曲〉が中心になったりして、こぼれてしまうものも必然的に多くなる。

 〈クラシック・ギター〉であっても同様。何人か、好みの演奏家でアルバムを揃えてみる。重なる楽曲、作曲家も多い。また、実際に演奏している人からすればあたりまえ、指に、手に馴染んでいる楽曲なのに、あまり一般には知られていない、というものだってある。

 〈クラシック・ギターの音楽〉アンソロジー、40枚。ボックスには〈18世紀〉〈古典派・ロマン派〉〈スペイン〉〈ラテン・アメリカ〉〈20世紀〉と、それぞれに何枚目のアルバムが相当するかが記されている。偏りはある。それでも、ぽつりぽつりと手にしてきたアルバムにはないものが大量に含まれていておもしろい。

 いちばん古いのがロベール・ドゥ・ヴィゼー。そしてバッハと来る。オリジナルだけじゃない。スカルラッティやチマローザは編曲だ。

 ギターといえば18世紀から19世紀、ジュリアーニやソル、パガニーニ。そのあたりは定石どおりだが、ルイジ・レニャーニ、フェルディナンド・カルッリ、カスパール・メルツ、ナポレオン・コストゥなどがあり、あいだにベートーヴェンやフンメルもある。驚いたのはディアベッリ――かの出版業も営んでベートーヴェンに大作を書かせてその名を後世に残した――による3曲のソナタ。

 タレガ、リョベート、トゥリーナ、トローバ、カサド、モンポウといったスペインもの、バリオス、ピアソラ、ポンセ、ヴィラ=ロボス、ヒナステラ、プホール、ブローウェルといったラテン・アメリカもの。さらに、まるまる1枚がカステルヌオーヴォ=テデスコだったり、ヘンツェだったり、クロード・ボリング、アンリ・ソーゲ、タンスマンというのはおもしろい。デュージャン、アンドュー・ヨーク、ギルバート・ビベリアンといった人たちはギター音楽に馴染みのある人にはおなじみだろう。意外だったのはボリス・アサフィエフ(ロシア)、ヘンク・バーディングス(オランダ)、クルタークやリゲティを教えたファルカーシュ・フェレンツ(ハンガリー)といった名があること。こうしたアンソロジーでもなければ作品じたい耳をかたむける機会もなかったのではなかろうか。

 けっして高名なギタリストたちの演奏ではないけれど、いくつもの発見があり、そして何よりもギター音楽の歴史を大括りに知るのに最適なボックスだ。