©Michael Tammaro

パリからの実りの秋。ロマン派から20世紀をじっくり歩む

 チェロの響きは秋からにふさわしい。なんて言うと、ちょっとばかばかしい気もするし、ほかの季節には申し訳ないけれど、ピアノとのソナタで聴くなら、やっぱり秋から冬にかけてがいちばん沁みるように思う。

 とくにロマン派の音楽が憧れを歌うとき、それは春であっても永遠の生命であってもいいけれど、秋からの季節や夕暮れから夜への時間帯にかけては、とくにチェロとピアノの声が得意とする領分である気がする。

 いやいや夏の別荘で筆が進められたのですよ、とたとえばブラームスのホ短調の第1ソナタについて言われたらごもっともだ。しかもこれは作曲家の20代の終わりからの創作でしょう、20年後のヘ長調とは違う、となれば、事実としてはたしかにそうなのです。けれど、その深い響きと悲哀を思うなら、聴き手の個人的な趣味としては秋か冬に聴くのがぴったりくる。

©Marco Borggreve

 さて、この曲とシューマンの“幻想小曲集”でロマン主義の実りの秋、そしてドビュッシーとブリテンの晩年の傑作へに臨むのが、ゴーティエ・カプソンと児玉桃のプログラム。まさしく成熟の季節を歩むものだ。

 ロストロポーヴィチのチェロと作曲者のピアノによってブリテンのソナタが初演されたのは出会いの翌年、1961年のことだから、ゴーティエ・カプソンも児玉桃もこの世に生を受けるには少し年月を待つ。パリ国立高等音楽院に前後して学んだふたりだが、児玉桃は1991年のミュンヘン国際コンクールや、夫人ロリオの信望を受けたメシアン作品の演奏などでまず知られてきたし、ゴーティエ・カプソンは2000年代に注目され、兄ルノーらとの室内楽でも活躍し、フランスの現在を代表する名手として信頼を集めている。

 素直な感性を保ちながら、急がずにそれぞれの成熟を歩んできたふたりの出会いは、パリやフランス音楽への愛着、室内楽を愛する対話者としての魅力をふんだんに盛り込みながら、ドイツ・ロマン派から、ドビュッシー、ブリテンにいたる20世紀までの名作を、どっぷりと旅する重量級のプログラムに結ばれた。それぞれの名手がもつ響きの色彩の組み合わせにも大きく期待がかかるのは、曲目と時代の多彩さゆえだ。

 さんざん秋冬を唱えてしまったが、ゴーティエ・カプソンのチェロには夏らしい青年的な抒情も薫るし、児玉桃のピアノには季節を超えた神秘的な光彩がある。当然のことだが、秋のまえには夏があり、それぞれが歩む人生の年代はまだ秋というには暮れておらず、豊かな成熟をしっかりと歩む生命の季節のさなかだ。じっくりと成熟をみつめながら、多様な音楽の生命に率直に打ち込むデュオは、真率に作品に向き合う瑞々しい情熱を片時も失うことはないだろう。

ゴーティエ・カプソンとヨーロッパ室内管弦楽団によるシューマン〈チェロ協奏曲〉
児玉桃によるショパン〈ノクターン第13番ハ短調 Op.48-1〉

 


LIVE INFORMATION
Music Program TOKYO:プラチナ・シリーズ
第3回 ゴーティエ・カプソン&児玉桃 ~二人のエスプリが奏でるチェロ・ソナタ~

2015年11月27日(金)東京・上野 東京文化会館 小ホール
開演:19:00
出演:ゴーティエ・カプソン(チェロ)/児玉桃(ピアノ)

■曲目
シューマン:幻想小曲集 op.73(チェロとピアノ編)
ブリテン:チェロ・ソナタ ハ長調 op.65
ドビュッシー:チェロ・ソナタ ニ短調
ブラームス:チェロ・ソナタ第1番 ホ短調 op.38

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