コラム

ベルリン・フィルが自主制作した12枚組CD+80ページの豪華本〈時代のタクト〉の内容を紹介

ベルリン・フィルが自主制作した12枚組CD+80ページの豪華本〈時代のタクト〉の内容を紹介

ベルリン・フィルの歴史を音と写真でまとめた豪華セット 

 届いてみてその大きさに驚かされた。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が自主制作したCD付き80ページの豪華本『IM TAKT DER ZEIT (時代のタクト)』である。ゴールドの装丁をもつ本のサイズは縦41センチ×横28.5センチもあり、ベルリン・フィルの長い伝統を物語る貴重な写真の数々が1~2ページ大に印刷されている。その写真の内容は初代常任指揮者フォン・ブレナー時代のプログラムに始まり、伝説的名指揮者ニキシュの指揮姿2枚、フルトヴェングラーと団員の集合写真(2ページ大)、ベルリンにトスカニーニワルタークレンペラー、フルトヴェングラー、クライバーが一堂に会したときの有名な写真(2ページ大)、若きホーレンシュタインによるブルックナー第7録音風景、第2次大戦後に廃墟の中で演奏するチェリビダッケとベルリン・フィル、現在のフィルハーモニー竣工時の写真、そしてアバドラトル時代へと続く。これらのモノクロ写真の印刷品位の高さは、思わず本をさばいて、お気に入りの写真を額縁に入れて飾りたくなるほどである。

BERLIN PHILHARMONIC ORCHESTRA ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 IM TAKT DER ZEIT(時代のタクト) Berliner Philharmoniker Recordings/キングインターナショナル(2015)

 そしてこの豪華本にはニキシュ時代の1913年からラトル時代の2002年まで、ベルリン・フィルの歴史を音で刻印したCDが12枚収められている。これらのCDは2006年に一度発売されたことがあったが、近年は入手できなくなっていたものである。とくに歴代指揮者たちとの記念碑的なライヴの数々、1954年、フルトヴェングラーとの最後のコンサートでのベートーヴェンの第1、1963年、新フィルハーモニー落成記念ライヴのカラヤンのベートーヴェン第9、1987年、ラトルとの初顔合わせ時のマーラー第6などは、オリジナル・マスターテープから復刻した音質の良さも相まって実に貴重である。加えてオイストラフ、バレンボイムザンデルリンクアーノンクールなどの大物客演指揮者たちが聴けるのも、このセットの価値を高めている。

BERLIN PHILHARMONIC ORCHESTRA,NIKOLAUS HARNONCOURT ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団&ニコラウス・アーノンクール~シューベルト・エディション(交響曲全曲、ミサ曲、オペラ) Berliner Philharmoniker Recordings/キングインターナショナル(2015)

 この豪華本発売の1カ月後、7月18日には時代考証派の巨匠、アーノンクール指揮によるシューベルト・エディション (CD8枚+ブルーレイ1枚)が発売された。これらは2003~2006年にライヴ録音されたもので、交響曲全8曲とミサ曲第5&6番、歌劇『アルフォンソとエスタレッラ』全曲を収録している。

 ベルリン・フィルは90年代からアーノンクールを招き、伝統の重厚なサウンドに加え、多様な解釈や奏法への柔軟な対応力を身につけた。その見事な精華がここに刻まれている。

 今までシューベルト作品は、19世紀後半に大作曲家のブラームスが校訂した楽譜が何の疑念もなく使われてきた。アーノンクールはウィーン楽友協会が所蔵する(第5番のみベルリン国立図書館所蔵)シューベルトの自筆総譜と同時代のパート譜を検討し、自らの演奏譜を作成、ベルリン・フィルは当時の演奏法を考慮しながら演奏している。従来の後期ロマン派の視点から解釈されたシューベルト像は打破され、ここにはシューベルトそのものが自然に息づいているようだ。例えば初期作品のフィナーレのロッシーニ的な性格は活力に満ち、緩徐楽章の抒情はより清々しくなり、金管や打楽器の力強いアクセントはシューベルトが交響曲に掛ける情熱をダイレクトに伝えてくれる。加えて国内仕様盤には輸入盤解説の日本語訳と、オペラ、ミサ曲の歌詞対訳が付いている。充実した演奏と解説が、日本における新たなシューベルト受容を促進することだろう。

 ベルリン・フィルの自主制作盤、秋以降はラトル指揮のシューマン/交響曲全集のSACDハイブリッド盤、生誕150年のシベリウス/交響曲全集と続き、2015年にはアバドのラスト・コンサート・イン・ベルリン (メンデルスゾーン《真夏の夜の夢》抜粋、ベルリオーズ:幻想交響曲)、ラトルのベートーヴェン/交響曲全集が予定されている。発売時には、その一つ一つが大きな話題を提供してくれるに違いない。

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