(C)Harald Hoffmann

 

ハーゲン・クァルテットの新たなモーツァルトの季節

 幾度でも立ち返るべき故郷ではあるのだろう。ハーゲン・クァルテットが結成以来35年の歳月を重ねて、また新たにモーツァルトの季節を生きている。後期10曲を主とするチクルスを先の10月にトッパンホールでも展開したが、曲ごとに大きく変容しながら道行きを進めるような独特の演奏となった。つまりは推移と変容の妙で、4声がバランスを変えながら多様な相貌を描いてきた彼らの流動的な創意が、曲ごとの性格に応じてさらに実験味を増して響いた。

 2013年の半ばから、アントニオ・ストラディヴァリの「パガニーニ」クァルテットを揃いで弾くようになったが、銘器の着こなしが板についてきたこともあるのだろう。たとえば、第1ヴァイオリンの発言力がバランス的に強まるとともに、楽器がよく歌うことも手伝ってか、節回しが長めにとられるようになった。内声の仕事の確実な巧妙さは相変わらずで、ベートーヴェン後期でみせた四輪駆動の変容力は、ここでも臨機応変で自在な感興を謳歌する。役割の固定で深化を図るのではなく、良い意味でのアバウトな柔軟性が、どこか液体的な生命を導き続けるのがハーゲンの面白さだ。親密で果敢な対話が、急進性よりはずっと柔らかな、ある種の緩やかさをもって自由に息づくのである。

HAGEN STRING QUARTET Mozart:String Quartets No.14, No.17 Myrios Classics(2015)

 さて、2006年には7枚組に成果をまとめたモーツァルト。結成30周年の記念盤に変ホ長調K428を再録したのに続く、これは2014年12月の録音。情感と内省が以前にも増して深まっているとともに、アグレッシヴな運びにはくつろいだ良さも出ている。名門と目されるようになってなお、かなりわがままな生成と変化をくり返すハーゲン・クァルテット独特の関係性と表現の懐は、家庭音楽とコンサートホールの両方の良さを鮮やかに体現する。とりわけこの2つの長調曲に聴く内的な親密さと、生き生きとして活発な表現効果の融和は、さすがに彼らの源泉ともいうべきで、余裕と円熟を醸し出しているが、これが帰郷であれ、終着点である気配はない。