(C)Julien Mignot

 

越境と高峰への意志、若き同志と新たな季節へ

 大切なのは創造的な熱気だ。エベーヌ四重奏団の音楽づくりには、鋭敏で柔軟な感性、そして挑戦という言葉を超えた自由への希求がある。多種多様なレパートリーは彼らの身上であり、熱狂的に迎えられているのがジャズやロック楽曲への彼ら一流のアプローチだ。自ら編曲やコーラスを手がけ、ステージでの燃焼はもちろん、結成10周年を記念した『フィクション』ではリシャール・エリのドラム、ナタリー・デセイルス・カサルファニー・アルダンの歌と、2014年の『ブラジル』ではマルコス・ヴァーリジム・トムリンソンとも、豊かな越境のスリルと交感の喜びを聴かせた。

 両作で歌うステイシー・ケントとは、パリのオフィスで居合わせた。「素晴らしい出会いだった。ともにクロスオーヴァーの前線を歩いているから」とヴァイオリンのガブリエル・ル・マガデュール。今秋続いて来日したケントとも言葉を交わしたが、「エベーヌとの旅にはまだ続きがあるのよ」と熱っぽく語っていた。

 クラシックの芯では、母国フランスの作曲家への親近性はもちろん、バルトークに鋭気をみせ、ハイドンモーツァルトプラームスときて、近くはメンデルスゾーン姉弟の作品を録音した。最新作は2013年、ピアノのメナヘム・プレスラーの90歳を祝うパリでのコンサートで、ドヴォルジャークシューベルトの五重奏曲を共演したライヴだ。「85年以上も演奏してきて、高齢だからブラームスの五重奏曲などはもう完全には弾けないけれど、メナヘム・プレスラーはその実、聴衆に作品の全部を想像させる。音を外したとしても、曲のすべてを聴き手に感じさせることができるんだ」。

MENAHEM PRESSLER,EBENE QUARTET プレスラー90歳 バースデイ・コンサート・イン・パリ Erato/ワーナー(2014)

 2015年に、20代半ばのアドリアン・ボワソーをヴィオラに迎えた彼らは、冒険的な姿勢を崩さないばかりか、「ヒマラヤみたいに高い」ベートーヴェンの全曲へも挑み始めた。「彼は若いが、成熟したものを感じた。あとはテイストだけど、キース・ジャレット・トリオをずっと聴いていると聞いて安心した。クラシック外への好奇心と感性の面でね」とチェロのラファエル・メルランが微笑む。「ジャズの即興演奏を楽しんだ兄の影響もあって。『ブラジル』でも歌ったベルナール・ラヴィリエは母のお気に入りだったし。先生どうしが四重奏団を組んでいたりと、いろいろと繋がりはあった」とボワゾーは言う、「加入してすぐベートーヴェンのチクルスに取り組めるのは幸運だ」。マティアス・ゲルネゴーティエ・カピュソンを迎えたシューベルトの次作が、新メンバーでの初録音となる。エベーヌ四重奏団はどんな場所かときくと、「ミラクル」、「同僚や友人以上、だから家族」、「ラボラトリー、想像力の源」と話し好きな彼らは口々に答えた。