指揮者ケント・ナガノ、ピアニスト児玉麻里夫妻を両親に1998年、カリフォルニア州バークレーに生まれ、現在はパリで勉強中のカリン・ケイ・ナガノが2014年7月1日、日本で正式にデビューした。ミューザ川崎シンフォニーホールで秋山和慶指揮東京交響楽団と共演し、サン=サーンスの組曲《動物の謝肉祭》の第1ピアノを“おば”に当たる児玉桃の第2ピアノとともに鮮やかに弾いた。前後して昨年9月にカナダで女性4人のセシリア弦楽四重奏団と録音したデビュー盤、『モーツァルト:ピアノ協奏曲集(室内楽版)』も発売された。清らかで芯のあるタッチ、きりりと引き締まった様式感は、すでに第1級のピアニストとしての水準を十分クリアしている。
――今まで日本に何度も来ているのに、演奏の機会はなかったのですか?
「私たち一家は年に1度必ず、お正月を日本の児玉家で過ごしますが、ピアニストとして人前で演奏したのは、本当に今回が初めてです。おばさまとの共演も初めて。驚くほど完璧に息が合い、とても楽しいコラボレーションでした。パリのジェルメーヌ・ムニエ先生門下の先輩後輩の間柄でもあります」
――音楽一家に生まれ、最初からピアニストを目指したのですか?
「ナガノ家4代目の音楽家を運命づけられていた気もしますが、押し付けられたことも、自分で決めたこともなく、ごく自然にピアニストの道へ進みました。小さいころピアノ以外のチェロ、声楽への関心を示していたら、両親が『すべてのベースだから』といい、まずピアノを始めたのです。徐々にピアノへ傾倒し、ずっと続けてきました。自宅に世界の最高クラスの演奏家、作曲家の方々が訪ねてこられ、音楽について様々なアイデアを授けてくださるのは、両親が授けてくれた最大の特権で、本当に恵まれていると感謝しなければなりません」
――9歳のデビュー以後、すでにピリオド楽器のアンサンブル〈ターフェルムジーク〉とはベートーヴェンの《ピアノ協奏曲第1番》を共演されました。今回のデビュー盤もモダン楽器との共演ながら、アーティキュレーションやフレージングにはピリオド奏法を研究した痕跡がはっきり示されています。
「せっかくモーツァルトでデビューするのですから、オーセンティックなアプローチにしないと意義は少ないと考え、カルテットと会う前にドイツへ出かけ、専門の先生に様式の教えをこい、ヨーロピアンな音のイメージを膨らませました。できればあと何枚か録音し、一つのプロジェクトに発展させたいものです」