自分の声で歌うように~デュオの呼吸も明るく響くフランス・ヴァイオリン作品集

 明るい美音を、いよいよのびやかに。俊英・小林美樹の新アルバム――フランス・ヴァイオリン作品集には心地よく親しい空気感が響いて、いい。

小林美樹,田村響 サン=サーンス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番-フランス・ヴァイオリン作品集- Exton(2015)

 「フランス音楽にあるお洒落な風のようなニュアンスなど、小さい頃から魅力を感じていたのですが、こういった色彩感や空気感をつくるのは、技巧的な作品よりもむしろ難しいですよねぇ」とレコーディングを優しい語り口で振り返る小林美樹。留学の地ウィーンと日本を往還しながら活躍を広げる彼女は、2011年の第14回ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール第2位受賞に続いて、2014年には出光音楽賞を受賞するなど大きな期待を寄せられるなか、アルバムは今回で3枚目だ。これまではオーケストラとの協奏曲ライヴ録音に、ソナタのセッション録音を併せるスタイルでつくられてきたが(2011年のデビュー盤はショスタコーヴィチプロコフィエフとロシアもの。2013年の2枚目はブルッフリヒャルト・シュトラウスとドイツ音楽集)、今回は初の全セッション録音。確かな個性を拡げるピアニスト・田村響との共演は、技巧的な鮮やかさを魅せる小品から、構築美も深めるソナタまで、二人の丁寧な呼吸も清々しい。

 「イザイ《サン=サーンスの「ワルツ形式の練習曲」によるカプリース》は、技巧的な点ではアルバムの中で一番難しいのですが、練習すればなんとかなる種類の問題。逆にフォーレ《夢のあとに》のような小品のほうが、技術的な問題がないぶん難しいですね。あえて呼吸感が聴こえるように弾いてみたり…」

 繊細な歌心を表現する困難と喜びと。「徳永二男先生からも『自分の声で歌うならどのように歌うのかをイメージして』と常に教えていただきました」と振り返る小林が、小品にじっくりとこめた表現も明晰だ。あるいはまたラヴェル《ツィガーヌ》に映える鮮烈。

 「いかようにも面白くできる曲ですね!(笑)とても効果的で素晴らしい作品。ショーソン《詩曲》は、独奏が埋もれがちな管弦楽版よりもピアノ版をぜひと」

 アルバムの軸ともなったサン=サーンスのソナタ第1番はなんと初挑戦。「せっかく録音するなら新たにレパートリーを広げようと…普通は逆なのかな?」と朗らかに笑いながら、「田村響さんも惚れ惚れするような音楽をつくるかたですから、ピアノが活躍する作品を…と考えて、以前から弾きたかったこの曲を選びました。自分がこうしたいと提案すれば田村さんも『じゃあこうしよう』と演って下さり、一緒に創ってゆく愉しさがあるレコーディングでした!」

 手応えを笑顔で語りつつ、今後弾きたい曲など未来像もはっきり描く彼女…着実な深化も楽しみだ。

小林美樹によるブルッフ〈ヴァイオリン協奏曲〉のパフォーマンス映像

 


LIVE INFORMATION
群馬交響楽団定期公演 第54回まえばし市民名曲コンサート

○2016年1月16日(土)18:30開演 
会場:前橋市民文化会館
出演:マティアス・バーメルト(指揮)小林美樹(vn)
曲目:グリンカ/歌劇《ルスランとリュドミラ》序曲
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲「展覧会の絵」

http://amati-tokyo.com/