新たな実験のため、現代社会へ問題提起するため、アナログへと振り切ってデジタルにグッバイ!

 ブルックリンのインディー・ロック・シーンを代表する3人組、イェーセイヤーが4年ぶり4枚目のニュー・アルバム『Amen & Goodbye』を完成させた。2012年の『Fragrant World』は、ディスコファンク、ヒップホップ、R&B、フリージャズといったさまざまなフレイヴァーが入り乱れる意欲作だったが、今回はその実験精神を引き継ぎつつ、生音の鳴りを大切にした一枚と言っていいだろう。

YEASAYER Amen & Goodbye Mute/TRAFFIC(2016)

 全体的には『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』期のビートルズを想起させるサイケ・ロックな要素が際立ち、親しみやすいメロディーやコーラスだって顔を覗かせる。しかし、“Half Asleep”では不穏なオリエンタル・ムードも漂わせるなど、リスナーを驚かせるアレンジが随所で確認でき、それゆえに一度聴いただけではとても消化できない複雑な内容だ。実際、メンバー全員の言葉として発信されたオフィシャル・コメントにも、次のような記述がある。

 「これまで作ってきた作品のなかで、間違いなくもっとも難解な仕上がり。アルバムを作るのにここまで時間がかかったことはなかったし、こんなに長く集中力を維持するのは本当に難しかった。僕らは一度アルバムを解体して、またひとつに仕上げ直したんだ。それぞれの曲の空気感に配慮しつつも、全体の流れに注意を払いながらね。デモからマスタリングに行き着くまで、2年半くらいは要したよ。以前の作品と比べてみたんだけど、今回は深く突き進んでるね。アレンジでいうと、シンプルなものからある瞬間にとんでもなくゴージャスなものへ変化したりさ」。

 ヒルベト・クムラン遺跡周辺で発見された〈死海文書〉を意味する“Dead Sea Scrolls”や、旧約聖書に登場するカインをテーマにした“Daughters Of Cain”など、聖書に関する用語が曲のタイトルや歌詞に多く見られるのも、『Amen & Goodbye』の大きな特徴だ。

 「でも、バビロニアの神々や信仰的な考え方に関して参考にしたものなんてほとんどないよ。アメリカに住んでいると、みんなが大統領選挙を体験する。そこでは〈最後の日〉が語られ、そしてすべては神の受難となる。それをひとつのテーマにして、リリックを考えたんだ。僕らの抱く、文化や宗教というものに関しての疑問を反映させながらね。言うなれば、〈Sgt. Pepper's〉とヒエロニムス・ボスサルバドール・ダリと〈Pee-wee's Playhouse(USで放送されていた子供向けのTV番組)〉を出会わせたようなものかな」。

 ここに挙がった固有名詞のなかでは、芸術家のヒエロニムス・ボスがいちばん興味深いと思う。15世紀から16世紀にかけて活動したヒエロニムスは、聖書に基づいた寓話をモチーフに数多くの絵画を残していて、ディープ・パープルも彼の代表作〈快楽の園〉をジャケットに使用したことで知られている。で、NYの彫刻家であるデヴィッド・アルトメイドが手掛けた『Amen & Goodbye』のアートワークを眺めていると、何となく〈快楽の園〉のオマージュのようにも思えたりして。ヒエロニムスの作品は社会風刺の精神も魅力のひとつ。そう考えると、本作は世界に対するイェイセイヤーなりの問い掛けなのかもしれない。どちらかと言えばサウンドの構築方法に話題が集まりがちだったグループだが、今回は作品に込められたメッセージにも注目すべきだろう。

 過去3作でのデジタル技術を活かしたアプローチから一転、NY北部のスタジオで初めてアナログ・レコーディングに挑んだこのアルバムには、リスナーの思考と想像を促す熱量が渦巻いている。