DILLANTHOLOGY
【緊急ワイド】最後のディラ特集
その最期から10年。J・ディラの残した音楽とその影響力はいまもなお大きくなるばかりだ。そして、長年存在を知られてきた未発表の一作もいよいよ世に出される時が来た。神話や幻想を越えたずっと先にある快感の正体とは……


 

Dillatency
ディラのエッセンスが潜在する人と作品

KARRIEM RIGGINS 『Alone Together』 Stones Throw(2012)

ディラの導きでビートメイクも始め、スラム・ヴィレッジやエリカ・バドゥらを手掛けてきたジャズ・ドラマーの初ソロ作。長短のインストが34曲並べられたビート・アルバムで、ストーンズ・スロウ産ということも踏まえればこれはまさに『Donuts』へのオマージュと言えるだろう。

 

JOEY BADA$$ 『B4.Da.$$』 Pro Era/Cinematic Music/ソニー(2015)

ミックステープ『1999』の頃からディラをビートジャックしていた悪童。この正規アルバムでは、ついにオリジナルのディラ・ビーツを授かり、ルーツも手を加えた“Like Me”として披露している。ノレッジやサムアイアムといったディラっ子が並んでいる様子も興味深い。

 

ERIMAJ 『Conflict Of A Man』 Don’t Cry/OCTAVE(2012)

気鋭ジャズ・ドラマーのジャマイア・ウィリアムズが率いるユニット。今作ではディラ“Nothing Like This”を取り上げて世代感をスマートに提示。ただ、ヴィセンテ・アーチャーやコーリー・キング、クリス・ターナーら顔役が振り撒くカッコ良さはそこに止まらない。

 

GUILTY SIMPSON 『OJ Simpson』 Stones Throw(2010)

ディラの愛弟子(?)としてジェイリブ作品などに抜擢され、デトロイトとLAをゴリゴリ跨いできた豪腕ラッパー。今作は表題通りマッドリブの全面制作で、この後にはアポロ・ブラウンやクエイカーズとも合体。完璧なビートを求める姿は師を超える音を探すようでもあり……。

 

OMSB 『Think Good』 SUMMIT/Pヴァイン(2015)

日本のJ・ディラ・チルドレン筆頭? ソロ初作をドーナツ状の構成に仕上げていた彼だが、ポリリズミックなビート捌きの美と乱調にモロな影響の大きさを窺わせる部分も当然ありながら、本作では特殊ジャケのこだわりからしてオマージュを捧げている。

 

DJ Mitsu the Beats 『CELEBRATION OF JAY』 Jazzy Sport(2014)

日本のジェイ・ディー・チルドレン筆頭? 本作はジェイの仕事に刺激を受けてクリエイションに励んできた男なりの、そのスピリットを表現したインスト集になっている。具体的なオマージュやカヴァーじゃなくても、甘いドーナツの栄養は一音一音に宿っているはず。

 

ILLA J 『Illa J』 Bastard Jazz/Pヴァイン(2015)

デビュー作~スラム・ヴィレッジ~ヤンシー・ボーイズ……と兄の七光り的な見られ方も厭わずに奮闘してきた彼だが、この近作ではポテトヘッド・ピープルやケイトラナダなどの次世代クリエイターと肩を組み、独自路線のメロウネス探求へ。グラスパーとのコラボも楽しみだ。

 

ROBERT GLASPER 『In My Element』 Blue Note(2007)

必然的にディラゆかりの顔ぶれと組むことも多いエクスペリメントでの諸作があったのも、ディラの留守電メッセージで始まり、コモン&スラム・ヴィレッジの“Thelonius”を奏でる“J Dillalude”の存在が、以降の彼を自由にしたから。そのうち本当に共演も実現しそうだ。

 

FLYING LOTUS 『Los Angeles』 Warp(2008)

もうその言葉で括るのもおかしな感じではあるが……本作を出す前後、プラグ・リサーチ軍団やLAビート・シーンからアタマ一つ抜けた頃の彼は〈ポスト・ディラ〉の最右翼と目される存在でもあった。実験的なビートを包むファンタスティックな空間処理はいまも鮮烈。

 

BLACK MILK 『If There’s A Hell Below』 Computer Ugly/ディスクユニオン(2014)

BR・ガンナ時代にスタジオで学んだディラ直系の後継者で、ヤングRJと袂を分かってからも先輩の遺志を受けてカルトロイト道を進んできた敏腕プロデューサー/ラッパー。ブルーやピート・ロックを迎えた本作も先達の……とか思ってたら5月には新作が届く模様!

 

VARIOUS ARTISTS 『DJ-Kicks: Moodymann』 !K7/OCTAVE(2016)

同郷デトロイトでまた別の宇宙へ潜ってきた不機嫌なヴェテラン。主宰するマホガニー・ミュージックからはDJディズことアンドレスをデビューさせたり、ディラの謎なアナログ『Lost Tapes Reels + More』を出したり、ボーダレスな感覚で交信しているような様子もある。

 

LETTUCE 『Rage!』 Velour/Pヴァイン(2009)

安定した人気を誇るUSジャズ・ファンク界のスーパー・バンド。本作はこの頁でも推薦したいもので、ドゥウェレが歌っているほか、トリビュート曲の“Mr. Yancey”がボーナス収録。プロデュース隊としてディラとトラックを共作したこともある彼らならではの出来だ。

 

VARIOUS ARTISTS 『Brrwd Love Volume One』 flau(2016)

オーストラリアのタークーと日本在住のREPEAT PATTERNが推進するビート・コレクティヴのコンピ。日本のYagiなど世界各国の才能がJ・ディラ以降の個性を持ち寄り、かつて〈Beat Dimension〉が多くの顔役を輩出したように、ここにも新たな未来が詰まっているはず。

 

welcome 2 Dillafornia
LAビーツを創るサムアイアムの新作 

 フライング・ロータスが〈ポスト・ディラ〉の筆頭として脚光を浴びた時代を鮮烈に記憶している人なら、その相棒として注目され、彼とは違う角度からLAビート・ミュージック道を追求しているこの男の動きにも目を光らせてきたことだろう。デトロイトの西方に位置するアナーバーに生まれ、LAを拠点に活動するサムアイアムことサム・ベイカー。ブレインフィーダー発の『Sam Baker’s Album』(2011年)で世を賑わせた才人が、実に5年ぶりとなるCDアルバム『Animals Have Feelings』を届けてくれた。

SAMIYAM 『Animals Have Feelings』 Stones Throw/BBQ(2016)

 前作にあたるカセットテープ作品『Wish You Were Here』(2013年)はマシューデヴィッド主宰のリーヴィングから出ていたが、今作はその親レーベルにあたるストーンズ・スロウから。ディラのビートも含むジョーイ・バッドアスの『B4.DA.$$』をはじめ、アール・スウェットシャツやダニー・ブラウンなどラッパーへのトラック提供も増えていた近年の状況を受け、今回はそのアールやアクション・ブロンソン、ジェレマイア・ジェイといった面々を初めてフィーチャー。独特の呼吸で進行する幻想的なループはいつもながらに心地良い音模様を描き、奇妙なサンプルとシンセの揺らぎは〈ネクスト・ディラ〉筆頭と目された往時の手つきをさらに独自進化させていて素晴らしい(“飛んでイスタンブール”使いの“Turkish Vacation”なんて怪曲も最高!)。足取りの共通点はともかく、ディラの創造性と中毒性を継承するLAビート・シーンの真打ちとして今回も必聴である。

 

welcome 2 Dillatroit
ディラに敬愛を捧ぐコレクティヴ・ピース

 ディラをきっかけにした大所帯バンドの演奏ということでは、LAのカルロス・ニーニョとミゲル・アトウッド・ファーガソンを中心としたセッション『Suite For Ma Dukes』が思い出される。そちらは彼の遺した楽曲を20名以上のアーティストでカヴァーしたトリビュート・セッションの音盤化だったが、ここで紹介するコレクティヴ・ピースはカヴァーとはまた違う形でディラと繋がるデトロイトのネオ・ソウル系バンド。もともとディラの功績を讃えてデトロイトで行われている祝賀イヴェント〈Dilla Day Detroit〉で演奏するために集まったところから、パーマネントな活動に発展したという経緯があるそう。核となるのはグラミー賞ノミネートの経験もあるサックス奏者のラダレル“サックスアピール”ジョンソンで、セオ・パリッシュのアルバムなどで歌っているイディヤーら、各人が独自に活動しているミュージシャンたちの集まったプロジェクトというわけだ。

COLLECTIVE PEACE 『Introducing Collective Peace』 Collective Peace/SWEET SOUL(2016)

 2014年に最初の音源“Let The Music Play”を配信し、アンプ・フィドラーを迎えたハウシーな“SoulBounce”も続けて発表。そしてこのたび完成を見たのがアルバム『Introducing Collective Peace』である。ノッツやブッチャー・ブラウンとの縁で知られるリッチモンドのジョン・ビブスが歌うシルキーな“Love’s In Waiting”があれば、ゾー!の鍵盤などを交えたフュージョン“Sun Chaser”もあり、“Let It Shine”にはジェシカ・ケア・ムーアがポエトリー・リーディングで参加、“Pillow Talk”ではドウェレ節が滑らかに披露されるなど、ディラと人脈の繋がる著名アクトも交えつつ香しいグッド・ヴァイブの流れる空間の美を創出している。デトロイトが生んだ最新の結晶としても注目すべき一作だ。