©Photo Michiharu Okubo

小澤征爾渾身の指揮に食らいつくサイトウ・キネン・オーケストラの重厚なサウンド

 今年上半期のクラシックの話題を攫った感のある、小澤征爾氏のグラミー賞初受賞。80歳を超え、円熟の極みへと進む氏の活動でも注目すべきものが〈サイトウ・キネン・フェスティバル松本〉(2015年より〈セイジ・オザワ松本フェスティバル〉に改名)での演奏となるだろう。もちろん今回の受賞作ラヴェル「こどもと魔法」も、このサイトウ・キネンから生み出されたものであることは言うまでもない。

小澤征爾 『バルトーク:歌劇《青ひげ公の城》』 Decca/ユニバーサル(2016)

 だが、それより先に発売を企画されていたオペラがあった。それが今回発売されるバルトーク作曲の「青ひげ公の城」だ。オーケストラとソプラノとバリトン、語り部が1名ずつのみで音楽が形成され、他の演者に歌唱は無しという、変則的な構成の曲として知られている。2011年8月の公演では、小澤征爾氏が指揮を予定していたが、体調不良の影響で4公演中2公演しか指揮できなかった。公演は少なくなったものの、ゲルネ(バリトン)演じる青ひげ公とツィトコーワ(ソプラノ)によるユディットの鬼気迫る歌唱と、小澤征爾氏渾身の指揮に食らいつくサイトウ・キネン・オーケストラの重厚なサウンドが、このオペラの個性的なドラマを見事に表現しつくしていった。公演は各所で絶賛され、当初は翌年2012年には発売が予定されたものの諸事情が重なり、公演から5年もの間お蔵入り。ようやく発売にこぎつけた待望の音源なのだ。「こどもと魔法」で興味を持たれた方も、これを機に聴いてみてはいかがでしょう。

 また、小澤征爾氏の新譜発売だが、この『青ひげ公の城(6月発売)』を皮切りに7月には同じサイトウ・キネン・フェスティバル松本での『ベルリオーズ“幻想交響曲”』、8月には今年3月に水戸室内管弦楽団と行った『ベートーヴェン“運命”&モーツァルト“クラリネット協奏曲”』と、3ヶ月連続で続く予定だ。益々貴重になる氏の至芸を一気に楽しむチャンス。ぜひお楽しみいただきたい。