INTERVIEW

ピアニスト小菅優が5年掛かりで完成! 各楽章の個性活かしてさまざまに表現したベートーベンのソナタ全集を語る

(C)Marco Borggreve

 

すべての人間のハーモニーを求めている~ベートーヴェンからのメッセージを込めたピアノ・ソナタ全集、ついに完成!

 小菅優が5年かがりで取り組んでいたベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集がついに完成した。2011年、20代でこの大きなプロジェクトに踏み出した彼女に、恐れやプレッシャーはなかったのか。「待っていたんです。小さい頃からレパートリーの中心だったし、18歳くらいから全曲演奏したいと思ってましたが、まだ早いと言われて(笑)」

小菅優 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集<完全生産限定盤> Sony Records International(2016)

 最初にソニーの担当者に企画書を提出したのは、2008年だったという。そこには、この全集の巻ごとの選曲、曲順まで、設計図のようにしっかり書かれてあった。「組み合わせは大事です。数の少ない短調のソナタをどのように配置するかなど、カードを作って並べて考えましたね」

 全5巻。それぞれのアルバムには、テーマに合わせ、漢字二文字のタイトルが付けられた。小菅自身のアイディアだ。最初の“出発”は初期作品のほか、ハイリゲンシュタットからの再出発を表わす作品も入った。 続く“愛”では女性に捧げた作品に加え、ベートーヴェンの人類愛もテーマになり、“自然”には 《田園》をはじめとする中期作品が並ぶ。

 第4弾“超越”は、第29番《ハンマークラヴィーア》を核にしたアルバム。「このソナタは、シンフォニーのような大作です。楽器の限界を超えてもいますよね。緩徐楽章は弾いていて辛くなるような究極の痛みを感じます。途中で希望の救済がありますが、再びどん底に落とされる。最終楽章のフーガは転調が多く、探し廻っても辿り着けないような音楽。会議のように各声部は一人ひとり喋ってなければなりません。それぞれ個性の強い楽章ですが、全体を見ないとバラバラになってしまうんです」

 そして、最新作である“極限”には、後期の傑作である3つのソナタも含まれる。ハンマークラヴィーア・ソナタという究極の葛藤のあと、ピアノという楽器さえ意識することなく、原点に戻った「脱皮したあとのベートーヴェン」だ。

 「後期なのにモーツァルトのような自由があり、たくさんの感情が同時に表現される」第30番。第31番は「慰め。そしてバッハを思わせる」という。「嘆きの歌である終楽章は、最後に長調に転じるのですが、それは明るくならず、悲しみが溢れています。最後までベートーヴェンは聴き手に悲哀を訴えてるんです」。そして、第32番は「一楽章は感情的に始まるのに、最終的に落ち着いた境地にもっていくところが、ある種不気味ですね(笑)」

 小菅にとってベートーヴェンはどんな作曲家なのか。「頑固で、皮肉なところもありながら、メッセージを強く感じる作曲家です。すべての人間によるハーモニーを求めているといったような。それは、激しい葛藤があってこそのハーモニーなのです」。「ブルックナーも好きなんですよ」と嬉しそうに語る。「葛藤している作曲家が好きなんですかね(笑)。切り詰められた瞬間が味わえるゲネラル・パウゼ、そして同じものを繰り返されるのがとても心地良いんですよ」。カール・シューリヒトギュンター・ヴァントの指揮した録音をよく聴く。「来日公演でチェリビダッケが振った交響曲第5番もいいですよね。チェリビダッケの引き出すオケの音は素晴らしい」

 ジャズ・ドラマーのスティーヴ・ガッドは、ブルーノートで聴いて好きになった。「リズム感、音色の付け方に共感しました。弱拍と強拍の自然な付け方など、弾力性がいい。それに、ポリフォニーもあるんです!」。クラシックにも造詣の深いガット。いつか二人の共演も実現するかもしれない。

 ベートーヴェンのすべてのピアノ付作品を徐々に取り上げる新企画『ベートーヴェン詣』が始まり、モーツァルトの協奏曲の弾き振りにも取り組む。さらに、リンドベルイ三善晃矢代秋雄など、現代の協奏曲にも挑む。大きなプロジェクトを終えたばかりの小菅だが、次のステージを淡々と見据える。

 


LIVE INFORMATION

サントリー芸術財団 サマーフェスティバル2016
〈耳の愉しみ〉ウツクシイ・音楽

○8/29(月)18:30開場/19:00開演
会場:サントリーホール 大ホール
曲目:ブルーノ・マントヴァーニ(1974-):衝突(2016)【世界初演】ゲオルク・ハース(1953-):ダーク・ドリームズ(2013)【日本初演】マグヌス・リンドベルイ(1958-):ピアノ協奏曲第2番*(2011-12)クロード・ドビュッシー(1862-1918):海 (1905)
○出演:板倉康明(指揮)小菅優(p)* 東京都交響楽団
http://suntory.jp/summer/

「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集」完結記念
小菅優 ピアノ・リサイタル

○9/28(水)19:00開演
会場:いずみホール(大阪)
曲目:ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 Op.13 《悲愴》
ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27-2 《月光》
ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op.57 《熱情》

○10/13(木)19:00開演
会場:電気文化会館 ザ・コンサートホール(名古屋)
曲目:ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第1番 ヘ短調 Op. 2-1
ピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調 Op.78 「テレーゼ」
ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 Op. 31-2 「テンペスト」
ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調 Op. 53 「ワルトシュタイン」
ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op. 111

○10/14(金)19:00開演
会場:紀尾井ホール(東京)
曲目:ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ第1番 ヘ短調 Op. 2-1
ピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調 Op.78 「テレーゼ」
ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 Op. 31-2 「テンペスト」
ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調 Op. 53 「ワルトシュタイン」
ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op. 111

www.yu-kosuge.com
www.beethoven-mo-de.com

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