©Sasha Gusov

バッハとコダーイにヴァシリエヴァの個性を聴く

 21世紀は個性的なチェリストの群雄割拠の時代と言っても良いだろう。その中でも注目される女性チェリストと言えば、やはりタチアナ・ヴァシリエヴァの名前をあげない訳にはいかない。2009年の〈ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン〉において、コンテンポラリー・ダンスの第一人者である勅使河原三郎とコラボレーションを行ったことは記憶に新しい。そのコラボレーションも、タチアナの音色の魅力に勅使河原が魅かれ、共演を熱望したところから始まったと聞いた。その前年に彼女はバッハの無伴奏チェロ組曲全曲を録音しており、その豊かな音楽性を証明していた。

 

 タチアナ・ヴァシリエヴァはロシア生まれ。2001年にロシア人としては初めてロストロポーヴィチ国際チェロ・コンクールで優勝した。実力は折り紙である。当然、ヨーロッパを中心として、世界的なオーケストラとの共演も多い。ゲルギエフの招聘により、ロストロポーヴィチ・メモリアル・コンサート(サンクトペテルブルク)にも出演している。華やかな活動を続ける一方で、彼女の音楽性はロストロポーヴィチ・コンクール優勝時より、さらに深みを増して来ている。それは彼女の絶えざる努力の賜物だろう。

 さて、東京文化会館で開催される〈プラチナ・シリーズ〉は小ホールの美しい響きを活かした独自のプログラム、しかもスター級の演奏家の登場で毎年楽しみな企画だが、今年はその第4回にタチアナ・ヴァシリエヴァが登場する(11月2日)。演奏する作品はすべて無伴奏曲で、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番と第5番、そしてコダーイの無伴奏チェロ・ソナタの3曲。無伴奏チェロ曲のなかでも珠玉の作品であり、同時に難しい作品ばかりだ。なかでもコダーイの無伴奏チェロ・ソナタは1915年の作品で、非常に高度なテクニックを要求される作品として知られる。それだけになかなか実演で聴くチャンスの少ない作品なので、タチアナの挑戦はぜひとも聴いておきたいところだ。

 もちろんバッハの無伴奏チェロ組曲はチェリストにとっては最も重要な作品であり、どのチェリストもその生涯にわたって、何度も繰り返し弾き続ける作品である。2008年の録音でも、タチアナは非常に充実した演奏を聴かせてくれたのだが、それでも数年たてば、その解釈にも変化が現れるもの。人生の様々な経験をへて、改めてバッハに向かった時に、そこには違った世界が広がる、と多くのチェリストは語る。そのバッハの無伴奏チェロ組曲を再発見したのが巨匠カザルス。今年は彼の生誕140年にあたるそうだが、その年に改めてバッハを聴いてみたいと思っている方も多いだろう。ぜひ東京文化会館小ホールへ足を運んで欲しい。

 


LIVE INFORMATION
Music Program TOKYO / Music Festival TOKYO
プラチナ・シリーズ第4回 タチアナ・ヴァシリエヴァ ~無伴奏チェロの若き至宝~

2016年11月2日(水)東京・上野 東京文化会館 小ホール
開演:19:00 

■曲目
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第5番 ハ短調 BWV1011
コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ op.8

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