境界の音楽と均質化への警鐘
ジョフィア・ボロスのECMから2作目のリリースとなる本作は、『ローカル・オブジェクト』というタイトルの示す通り、世界各地それぞれの風土に根ざした魅力ある作品を集めている。それらの一つ一つは、まるでその場所に暮らす人々の生活や日常における心理的な高揚と安らぎを切り取ったドキュメンタリー・フィルムの映像のようなリリシズムを喚起する。
核となっているのは、クラシック・ギターのレパートリーとしては古典となったドメニコーニによる《コユンババ》と、クロノス・カルテット、ヨーヨー・マ、最近ではヒラリー・ハーンがその作品を演奏しているがギターの世界では比較的新鮮なフランギス・アリ=ザデーの《ファンタジー》。《コユンババ》では、音色の色彩感やニュアンスの細部までこだわった歌い込みに魅了される。
ジョフィア・ボロスは1980年生まれで、この世代のヨーロッパには、それまでの楽器の概念や歴史とは一見分断されたように均一な音色と完璧なテクニックを持つクラシック・ギタリストが大量発生しているのだが、このアルバムでの演奏はそんな風潮にとらわれず、温もりや肌触り、透明な呼吸のおおらかさに満たされている。暖かいだけでなく現代的でソリッドな眼差しも感じさせる。ご本人を存じ上げないのでそれが彼女の意図なのか、プロデューサーであるマンフレート・アイヒャーの意向なのかはわからないが、70年代からECMのギターサウンドを愛してきたリスナーには懐かしく、その美しさが普遍的なものであると確認できる響きの世界がここにはある。
一曲目のデュプレッシーは最近ヨーロッパのギタリストたちに好まれているフランスのミュージシャン。最後の曲のアレックス・ピンターはウィーン在住のジャズ系ギタリスト。その合間をジスモンチ、カルドーソ、アル・ディ・メオラ、ガロートという大きく言えばラテン文化のパッションを持つギタリストの作品が埋める。選曲と構成へのこだわりをとても強く感じる。