コラム

100年前の音色に耳を澄ませて―文筆家の青柳いづみこ&ピアニストの高橋悠治、1900年製スタインウェイで奏でた共演作

青柳いづみこ、高橋悠治『大田黒元雄のピアノ-100年の余韻-』

(C)後藤英夫

 

100年前のサロン・コンサートから再発見するピアノの魅力

 聴くたびに幾重にも興味が広がってゆくアルバムである。演奏はドビュッシー研究家であり文筆家の青柳いづみこと、彼女が近年、共演を重ねている作曲家・ピアニストの高橋悠治。使用楽器は、日本における音楽評論の先駆けである大田黒元雄(1893-1979)旧蔵の1900年製スタインウェイで、録音も大田黒が居住していた館の書斎で行なわれた。曲目は、ドビュッシー、グリーグゴダールフォーレマクダウェルスコットスクリャービンプロコフィエフ山田耕筰の独奏曲とラヴェルの連弾。実際に大田黒邸の、このスタインウェイで当時演奏された曲である。

青柳いづみこ,高橋悠治 大田黒元雄のピアノ-100年の余韻- ALM RECORDS(2016)

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 大田黒は経済的に恵まれた環境にあったからか、政治や経済からの関心ではなく、感性の赴くまま海外の文化を吸収していった。その先にあったのが、彼と同時代の音楽だった。このCDには、新しい文化を全身で受け止めた先人への思いが結晶したかのような、音楽する新鮮な喜びと活力が溢れている。高橋と青柳のなせる技であり、また現代とは異なる音色をもつピアノの魅力だろう。この音色は、先に挙げた作曲家たちが耳にしていたはずのものでもある。実際このピアノをプロコフィエフは来日した折に、大田黒の前で演奏したという。1900年代の人が好んだ音に耳を澄まし、思いを馳せるのも楽しい時間である。

 ところで、青柳の演奏は高橋との共演によって少しずつ深化している。同業のピアニストをも魅了する高橋は、古典曲も現代曲も、類を見ない演奏をする。打鍵した音の余韻が、一音であって複数の音が鳴り響く三味線のように、玉虫色に変容してゆくこともある。ピアノでこのような表現が可能なのだろうかと、いつも驚かされる。

え・柳生弦一郎
 

 かつて武満徹ヤニス・クセナキス小澤征爾など数知れぬ音楽家、そして聴衆を魅了した高橋は、いまも進化し、変化し続けている。年が明けた2017年の2月24日には、高橋のソロコンサートがある。高橋の音楽に触れる喜びを、多くの人と分かち合いたい。

 


INFORMATION

高橋悠治 ピアノ・リサイタル
『めぐる季節と散らし書き 子どもの音楽」

○2017年2/24(金)19:00開演 会場:浜離宮朝日ホール
曲目:ヘンリー・パーセル 組曲7番ニ短調/高橋悠治 散らし書き(新作初演)/エリック・サティ コ・クォが子供の頃 (1913) 他
www.asahi-hall.jp/

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