追悼盤として、永遠に聴き継がれるべき名盤をUHQCDで

 日本流に言うと大正生まれで、92歳の昨年まで現役指揮者として数々の名演奏を聴かせてくれたスクロヴァチェフスキ。今年2月に惜しまれつつ逝去した巨匠の追悼盤として、2007~2009年に読売日本交響楽団とライヴ録音したブラームスの交響曲全集が廉価BOXで発売される。初出時には1枚ずつSACDハイブリッド盤で発売され、各方面から演奏、録音とも絶賛を浴びたものだが、今回は通常のCDプレーヤーで高品位な再生音を楽しめるUHQCD仕様となり、価格も求めやすくなったのがポイントだ。実際、優秀録音+UHQCD化の効果は圧倒的で、その音質は鮮明にして繊細、豊かな響きの量感と質感を見事に伝えてくれる。

STANISLAW SKROWACZEWSKI,読売日本交響楽団 ブラームス:交響曲全集 Columbia(2017)

 両者による演奏の美点は以下の3点に集約されるだろう。先ず、ブラームスの細やかな作曲技法を演奏により解き明かしていること。例えば交響曲第1番第1楽章の冒頭。運命の足音のようなティンパニの連打に乗って弦楽器群がテーマを歌うのだが、それを裏から支える木管楽器群が天空から降り注ぐように聴こえ、しかも弦楽器群と絶妙なバランスを保っている。この場面以外でも、ブラームスが書いた様々な音楽的対照を両者はクリアかつ迫力十分に描き、楽器どうしの鮮烈な重なり合いが目に見えるように示されるのである。

 第2に、ロマンティックな情感の豊かさ。同時代のブルックナーではストレートな歩みを見せる両者が、ブラームスでは緩急や強弱、音色の明暗を自在に操り、歌に満ちた演奏を繰り広げている。とくに交響曲第2番と第4番では、こうした演奏が楽曲の情趣を存分に描き出し、オケの深みのある響きと相まってブラームスを聴く醍醐味を満喫させてくれる。

 第3にライヴならではの音楽の自然な息遣いと、楽員たちが巨匠の棒に必死になって付いてゆく熱っぽさを挙げたい。上記した2つの美点が、聴き手に強く迫るのはこのためで、巨匠の行き着いた芸術境を示すものとして永遠に聴き継がれるべき名盤と言えるだろう。