リズと青い鳥
高校の吹奏楽部でオーボエとフルートを担当する二人の少女の関係性を描いた人気小説が劇場アニメ化。その儚く美しい世界観をサントラと主題歌から紐解いてみよう
★OST『girls,dance,staircase』二人の少女の繊細な関係性を牛尾憲輔が音像化。その儚く美しい世界観を映したコンセプト・ワークとは?
THEME SONG by Homecomings
「リズと青い鳥」の主題歌“Songbirds”を手掛けたのは、京都在住のHomecomings。彼らにとっては初めて挑戦する映画主題歌だ。メンバーの福富優樹(ギター:以下同)は、オファーが来た時の喜びをこんなふうに振り返る。
「いつも映画のエンディングで流れる曲を意識して聴いているので、それを自分たちで作ることができるのは本当に嬉しかったですね。脚本を読んで、アニメーション以外では表現できない感情の機微を描こうとしている作品のような気がして、身が引き締まる思いでした」。
メンバーは山田尚子監督と作品について話し合い、さらにアニメーションを作っている現場も見学して、曲のイメージを膨らませていったという。
「監督からは、映画に対する想いや、〈磨りガラス越しに(みぞれと希美を)見守るような目線で作りたい〉というイメージなんかを話していただきました。あと、監督から〈Homecomingsが大好きなんです! いつものHomecomingsでお願いします〉と言っていただけたのが嬉しかったですね」。
そうして完成した“Songbirds”は、まさにHomecomingsらしいエヴァーグリーンなギター・ポップ。切なさが込み上げるメロディーに乗って、映画のシーンが甦ってくるようだ。
「自分たちのルーツでありながら、意外と今までやってこなかったブリット・ポップ感を意識しました。京アニの工場に見学に行った後、散歩しながら聴いたティーンエイジ・ファンクラブと、その日の西日も曲作りのヒントになっています。街の夕陽が本当にきれいだったんですよね。サビのメロディーは、ヴォーカルの畳野(彩加)がかなりこだわって最高のメロディーを作ってくれて。通して聴いた時に泣きそうになりました」。
一方、歌詞は映画の世界観がHomecomingsの言葉で綴られている。なかでも印象的なのが、みぞれと希美の関係を象徴するような〈近づいたり離れたりするふたつの線〉だ。作詞を担当した福富によると、脚本を読んで最初に思いついたフレーズだったらしい。
「みぞれと希美の感情の距離みたいなものが映画のテーマだと思ったんです。〈今この瞬間に感じたこと〉を忘れないようにしながら、歌というものに閉じ込める、その所作やその季節を磨りガラス越しにそっと見守るような、そんな歌詞を書けたらなと思いました。あと、監督が僕たちの楽曲のなかでも“HURTS”が特に好き、ということだったので、“HURTS”の物語の続きのような感覚も歌詞に流し込んでみました」。
さらに原作ファンにとって気になるのは、「ちょっとした仕掛けのような気持ちで〈響け! ユーフォニアム〉シリーズのファンの方にしかわからないようなフレーズを歌詞に忍び込ませた」ということ。「最終的にその部分が歌詞のなかで結構重要な意味を持つことになりました」と福富は語るが、そのパートは聴いてからのお楽しみ。また、“Songbirds”のシングルには、Homecomingsの既発曲“Play Yard Symphony”が新しいヴァージョンで収録されているが、選曲した理由を訊ねると……。
「脚本を読んで想像した世界観や、監督との会話で出てきた〈箱庭〉というキーワード、そして、“Songbirds”の〈西日〉というテーマが“Play Yard Symphony”ととてもリンクしていたので、アコースティック編成で再アレンジしたものを収録しました。このアレンジは、僕たちとサヌキサオヤさんとで映画館でやっている〈New Neighbors〉というイヴェントで披露していたもので、映画という繋がりもあって良いな、と思ったんです」。
たしかに、“Play Yard Symphony”は映画のイメージにぴったりだ。また、本作が同じく京都を拠点に活動する制作会社の作品だったこともバンドにとっては嬉しかったらしく、京都アニメーションへの想いをこう語ってくれた。
「京都に進学で引っ越してきた頃に『けいおん!』が放映されていて、修学院とか当時住んでいた町の近辺が登場して興奮したのを覚えています。出町柳が舞台になった『たまこまーけっと』も好きでした。主題歌の“ドラマチックマーケットライド”、良い曲ですよね。京アニさんと僕たちは、〈アニメ〉と〈音楽〉という違う形を取りながらも、物語とそのなかの感情を表現しようとしているのは同じだと思います。『リズと青い鳥』を観た方が、そこで感じたことを僕らの曲に閉じ込めてくれると嬉しいですね」。
そして、映画から飛び立った“Songbirds”は、観客の胸の奥で力強く羽ばたくのだ。