田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野がこの一週間に海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する連載〈Pop Style Now〉。話題なのは、なんといってもレディオヘッドですよね。名作『OK Computer』(97年)のレコーディング・セッション音源がBandcampで『MINIDISCS [HACKED]』としてリリースされました

天野龍太郎「事の発端はMD(!)に残されていた音源がハッキングによってリークされたことでした。ハッカーからは〈身代金〉を要求されていたようですが、〈そっちがそうくるなら、こっちだって〉と正式リリースした、とのことで。なんともレディオヘッドらしいというか、頓智話みたいですよね」

田中「なお、売上金は環境団体への支援に回すそう。18日間限定の販売らしいので、ゲットしたい方はお早めにどうぞ! 日本円で2,500円くらいです! さらに、〈フジロック〉への出演が決まっているトム・ヨークのソロ新作を予告したらしき謎の広告が渋谷に出ているという噂も……。2019年もレディオヘッド関連の話題は尽きなさそうです」

天野「ファンからは賛否両論あるトムのソロ、僕は結構好きなので新作を楽しみにしています! それでは今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から

 

Burial “Claustro”
Song Of The Week

天野「そんなレディオヘッドとトム・ヨークのお気に入りでもあるアーティストが〈SOTW〉に。発音は〈ベリアル〉! 日本語表記は〈ブリアル〉!!のニュー・シングル“Claustro”です」

田中「表記問題、こだわりますね(笑)。それはさておき、ダブステップを代表する孤高のプロデューサーの久々の新曲です。BBC Radio 6でプレミア発表されたものが正式リリースとなりました」

天野「寡作かつ謎めいたブリアルですが、2018年はバグとのユニット〈Flame 1〉でEP『Fog / Shrine』を、またコード9とのミックス『Fabriclive 100』を発表。2017年はゴールディーのクラシック“Inner City Life”(94年)のリミックス、ホーム・レーベルのハイパーダブではないノンプラスからEP『Pre Dawn / Indoors』、ハイパーダブからの新曲“Rodent”と、意外にもリリースは多かったんです」

田中「そんなにいろいろやってたとは。本人と関係ないところでは、名盤『Untrue』(2007年)の10周年でファンとメディアが盛り上がりましたね。Resident Advisorが制作したショート・ドキュメンタリーは必見です。で、ここ数年のブリアルの楽曲に言えることは、ダブステップのサウンドやビートからどんどん離れていることです。リズムも多彩になり、組曲形式の長尺曲やアンビエント風の曲も増えました」

天野“Claustro”のB面“State Forest”は完全にビートレスのアンビエントです。また、5月に出たルーク・スレイター“Love”のリミックスは4つ打ち。あとはルーツ回帰的な傾向もあって、UKガラージやレイヴのサウンドに意識的に取り組んでいるのを感じます」

田中「この“Claustro”はまさにそうですね。レイヴィーで、UKガラージをブリアル流にやった一曲と言えます。終盤でテンポを上げて、初期トランスっぽくなる展開にもアガりますね! ただ、ノイズで汚された質感は一発でブリアルってわかるもので」

天野批評家のマーク・フィッシャーが言うところの〈亡霊〉っぽい感じですよね。それにしても、ブリアルはもうアルバムというフォーマットで作品を発表する気はないのでしょうか……? できればアルバムも聴きたいところです」

 

Moodymann “I'll Provide”

田中「続いてデトロイト・ハウスの重鎮、ムーディーマンの新曲“I’ll Provode”です。6月21日(金)にデジタル・リリースされるアルバム『Sinner』の冒頭を飾る曲だそうで」

天野RAの記事によると、『Sinner』は5月にデトロイトで開催されたフェス〈Movement〉の最中にヴァイナルが登場し、あるバーベキューと街のレコード・ショップ数件で売られていた、とありますね。なにがなにやら……」

田中「とりあえずヴァイナル版とは収録曲がいくつか違うみたいですよ。ムーディーマン作品あるあるですね。この“I’ll Provode”はどちらにも入っているんですが、デジタル版のリリース告知と合わせてミュージック・ビデオが公開されました。サブスクにはないので、YouTubeかBandcampで聴きましょう! ちなみにBC版のほうがロング・ヴァージョンになっています」

天野「今回も彼らしい、ドープでファンクネスに溢れた楽曲ですね。最初の〈ドン!〉ってキックの音からぶっ飛ばされます」

田中「低音が笑っちゃうくらいハンパない。ベースの音圧が凄すぎて、スピーカーが飛ぶんじゃないかと思いましたよ」

天野「前のめりなグルーヴのフロア・バンガー的な前半から一転、後半は女性ヴォーカルが中心のスロウなネオ・ソウルになります。この組曲的な構成もおもしろいですね。スペーシーなシンセサイザーが〈ビー〉って鳴っているところもムーディーマン印で」

田中「MVはイルなセンスが炸裂。〈見てはいけない〉系の恐怖映像がコラージュされています。『MAMA』(2013年)など、ホラー映画のシーンもちょこちょこ入っていますね。閲覧注意! アルバムは今週末の話題作になりそうです」

 

Flume feat. London Grammar “Let You Know”

田中「3曲目はフルームの“Let You Know”。フルームはオーストラリア、シドニー出身のトラックメイカーです」

天野「いわゆるフューチャー・ベースを代表する俊才ですよね。トラップやベース・ミュージックを取り込みながらもどこか上品で浮遊感を持った音が特徴ですが、エクスペリメンタルなところもあって。2016年のアルバム『Skin』は、グラミーで最優秀エレクトロニック・ダンス・アルバム賞を獲っています」

田中「“Let You Know”は、ソフィーやJPEGMAFIAの参加も話題になった3月リリースのミックステープ『Hi This Is Flume』以降の新曲となります。このミクステは天野くんも愛聴していましたよね」

天野「最高です! ミクステだからか、彼のディスコグラフィーのなかでも先鋭的なサウンドになっているところが、ものすごくかっこよくて。それにしても、今年のフルームは精力的です。3年ぶりのヨーロッパ・ツアーも開催するそうですし」

田中「アルバムも出すのかな~なんて考えちゃいますけど、この“Let You Know”はその期待を煽る好曲ですよ。イギリスのポップ・ユニット、ロンドン・グラマーをフィーチャーしていて、ハンナ・リードの伸びやかな歌声が爽快なダンス・トラックです」

天野「軽やかに跳ねるリズムに心躍りますよね。ビートの抜き差しがシャープな感じで、2ステップ的。こういうアーバンさは好きですね。一方、電子音が変なリズム・パターンで入ってくるところが本当にユニークです」

田中「フルームのポップ・サイドを代表するナンバーになりそうですよね。今後の活動も楽しみです!」

 

Big K.R.I.T. “K.R.I.T. HERE”

天野「4曲目は米ミシシッピを代表するラッパー、ビッグ・K.R.I.T.の新曲“K.R.I.T. HERE”です。かっこいい!!」

田中「この人、僕はあまり知らなかったんですが、アトランタのトラップが席巻する以前から南部のシーンを支えていた存在だそうですね。泥臭いラップを武器にミックステープで成功を掴んで、2010年にはデフ・ジャムとサインして」

天野「その後デフ・ジャムからは離れてしまうのですが、2017年のダブル・アルバム『4eva Is A Mighty Long Time』はロバート・グラスパーらジャズ・シーンの精鋭たちも参加した傑作でした。今年は散発的に発表していたEPをまとめた『TDT』というアルバムを1月に出していて、畳み掛けるようにニュー・アルバム『K.R.I.T. IZ HERE』からのシングルがこうして届けられて」

田中「ゴスペル風の力強いホーン・セクション、昔のカニエ・ウェストっぽい、早回しでピッチが高くなったヴォーカル・サンプルのループ、せわしなくバタつくビート、K.R.I.T.のパーカッシヴなラップ……と、かなりパワフルな曲。これはかっこいいですね!」

天野「どこかニューオリンズ・バウンスっぽくて、踊れるんですよね。〈さすがサザン・ヒップホップを代表するキング!〉と思わせられました。南部の遺産を受け継ぎつつ、サウンド面での冒険を忘れないK.R.I.T.のよさが詰まった一曲です。7月12日(金)リリースのアルバムも楽しみですね!」

 

Nérija “Riverfest”

天野「今週最後の一曲は、ロンドン・ジャズ・シーンの俊英が集まったコレクティヴ、ネリヤの“Riverfest”です」

田中「ネリヤは、マイシャというバンドやソロでも活躍するテナー・サキソフォニストのヌビア・ガルシアを中心に、7人ものメンバーがいる大所帯なんですよね。彼女たちについては、野田努さんと小川充さんによるUKジャズ対談でも言及されていました」

天野「その記事にもあるように、ネリヤはドミノとサインを交わしていて。今年2月には自主制作の『Nérija EP』をドミノのライセンスでリイシュー。満を持してデビュー・アルバム『Blume』が8月2日(金)にリリースされます。“Riverfest”はそこからのシングルです」

田中「前半部分で披露されるシャーリー・テテのギター・ソロが印象的ですよね。アフリカンなフレージングや音色を感じさせるもので。リジー・エクセルのドラムとリオ・カイのベースが生むグルーヴも、ファンクやラテン音楽を独自解釈した西~中央アフリカの70年代の音楽っぽくて腰にキます」

天野「バンド、ココロコのリーダーであるシェイラ・モーリス・グレイのトランペットも伸びやかです。でも泥臭さはなくて、なんだかさわやかですよね。アルバム・タイトルの〈Blume〉というのはドイツ語で〈花〉を意味するようですが、そのイメージです。後半で管楽器奏者たちが自由に吹き鳴らすあたりなんて、まさに咲き乱れる感じ」

田中「ダニー・クリヴィットとかNYガラージュのDJもプレイしそうだなーと思っちゃいました。っていうか、してほしい(笑)」

天野「というわけで、今週の〈PSN〉は踊れる5曲になりましたね! ちなみに、ネリヤのアルバムには“EU (Emotionally Unavailable)”という曲も収録されるようです。EU離脱問題で政治的な混乱常態にあるイギリスへのメッセージも音に込められているのでしょうか? 楽しみです」